女の子のお決まりパターン
町を散策し、買い物をしているうちに、いつの間にか夕方になっていた。
空は少しずつ茜色に染まり、店先では帰宅前の客が最後の買い物を済ませている。
そろそろ夕食の準備をする時間だ。
私たち四人は、イザナさんの家へ戻ることにした。
すると――。
「私たちも行くよ!」
勇者一行の三人も、当然のようについてくる。
どうやら、私たちが居候する前から、この三人はイザナさんの家に入り浸っていたらしい。
イザナさんも特に何も言わない。
本人が何も言わないのなら、私たちが口を挟むことでもないのだろう。
……とはいえ。
正直なところ、この三人のために料理を作るのは、少し気が進まなかった。
別に嫌いというわけではない。
ただ、何となく気乗りしないのだ。
私たちは神。
だからといって、人によって態度を変えるのは良くない。
頭では分かっている。
それでも、どうにもやる気が出なかった。
居候する条件の一つが料理だから、帰宅すると私はそのまま厨房へ向かった。
今日の夕食に使う食材を並べていく。
野菜に米。
調味料。
そして――。
町で買ってきた大きな白身魚。
一メートルを超える魚――ちゃい。
まな板の上に置かれた巨体を見ていると、改めてその大きさに驚かされる。
これだけ大きければ、かなりの量が食べられる。
さて、どう料理しようか。
そう考えていたところだった。
「私も作る!」
るりが厨房へ入ってきた。
「私の方が美味しいご飯作るから」
「……」
私は思わず、るりの顔を見る。
どうやら――料理で勝負するつもりらしい。
「そう。じゃあ、負けないわよ」
「望むところだよ!」
るりが楽しそうに笑う。
私も引くつもりはなかった。
こうして、なぜか女同士の妙な料理勝負が始まった。
「私は頭とカマを使うね」
るりは、ちゃいの頭とカマを選んだ。
私は魚の身を使うことにする。
「じゃあ、これは私がもらうね」
るりが大きな魚の頭を持ち上げる。
そして――。
「ふんっ!」
ゴンッ!
厨房に鈍い音が響いた。
魚の頭が、綺麗に真っ二つになっている。
「……」
私は固まった。
包丁を使う必要すらないらしい。
るりは何事もなかったかのように魚の頭を処理すると、そのまま鍋へ入れていく。
調味料を加え、火にかける。
どうやら煮付けにするらしい。
私も負けてはいられない。
魚の身を切り分け、フライパンへ乗せる。
バターを溶かすと、白身の表面がじゅうっと音を立てた。
焼けていく魚から、香ばしい匂いが立ち上る。
ムニエルだ。
さらに残った骨を使い、あら汁も作る。
横では、るりが煮付けを作りながらサラダまで用意している。
お互い一歩も譲らない。
言葉を交わすこともなく、黙々と料理を続けた。
包丁がまな板を叩く音。
鍋の中で煮汁が煮立つ音。
魚が焼ける音。
厨房の中に、様々な音と香りが広がっていく。
そして三十分ほど経った頃――。
「できた!」
夕食が完成した。
ちゃいの煮付け。
ちゃいのムニエル。
あら汁。
サラダ。
そして白ご飯。
料理をテーブルへ並べ、全員が席につく。
「いただきます!」
皆で手を合わせ、食事が始まった。
イザナさんは、まずムニエルを口へ運ぶ。
ゆっくりと噛み、飲み込む。
続いて、煮付けを一口。
「……」
沈黙。
イザナさんは何も言わない。
私は、そっと隣を見る。
るりもこちらを見ていた。
目が合う。
お互いに、何となく嫌な予感がした。
そして――。
「ムニエルは味が薄いな」
「……」
「煮付けは甘すぎる」
「……」
イザナさんの容赦ない評価が飛んできた。
私は周りを見る。
タケミもフレイも、そして勇者一行の三人も、微妙な顔をしながら頷いている。
「えー。甘い方が美味しいじゃん」
るりが頬を膨らませる。
「素材の味を生かしてみたんですが……」
私も反論する。
すると、イザナさんは魚を見ながら言った。
「白身魚は淡白だから、これじゃあご飯が進まねえな」
「……」
「……」
私とるりは、そろって肩を落とした。
料理勝負は、完全に負けだった。
「私はテン姉の料理、美味しいと思います」
フレイが慰めるように言ってくれる。
「フレイ……」
優しい。
優しいのだけれど、今はその優しさが余計に胸に刺さる。
「でも、これは味が薄いだろ」
タケミが容赦なく言った。
「タケミ……!」
思わず睨む。
素直なのは良い。
良いのだけれど、今はもう少し気を遣ってほしい。
「けど、この味噌汁は出汁が効いてて美味しいよ」
ゆうきがフォローしてくれる。
「このサラダも美味しいよ」
あんなも続けた。
「……ありがとう」
気を遣ってくれているのが分かる。
でも――。
味噌汁は、実際に少し味が薄い。
サラダにいたっては、野菜を切っただけ。
ドレッシングも八百屋特製のものだ。
気を遣ってくれているのが分かるだけに、余計に惨めだった。
なんとも居たたまれない空気の中、皆で黙々と箸を進める。
それでも、料理を残す人はいなかった。
やがて、皿の上から料理が少しずつ消えていく。
最後には全員が綺麗に食べ終えていた。
食事が終わる。
私は、ずっと気になっていたことを口にした。
「そういえば、るりが魚の頭をチョップで割ってたけど……」
「ああ、あれ?」
るりが自分の手を見ながら笑う。
「私、拳で戦うから」
「なるほど……」
私は納得した。
そういえば、三人がどうやって戦うのか、詳しく聞いたことはなかった。
「それぞれ、どんな戦い方をするんですか?」
私が尋ねる。
「俺は主に剣と魔法だな」
ゆうきが答える。
「私は拳!」
るりが胸を張る。
「私は魔法よ」
あんなも続いた。
私たちも、それぞれの戦い方について話しておく。
すると、異世界には「職業」というものがあるらしいことが分かった。
「職業?」
「ああ。俺は勇者」
ゆうきが答える。
「るりは拳帝で、あんなは賢者だ」
「勇者に拳帝に賢者……」
聞き慣れない言葉ばかりだ。
ゆうきの話では、勇者は剣も魔法も使える最強クラスの職業。
拳帝は、接近戦においてトップクラスの力を持つ者。
そして賢者は、魔法使いの最高峰ともいえる称号らしい。
「へえ……」
私は三人を見る。
それぞれ得意とするものが、はっきりと違っている。
そんな話を聞いていると、それまで黙っていたイザナさんが、ふと思いついたように口を開いた。
「そうだ、フレイ」
「はい?」
突然名前を呼ばれ、フレイが顔を上げる。
「あんなに魔法を教えてもらえ」
イザナさんは、あんなを見る。
「俺じゃあ、魔法については教えられないからな」
「あら。私はいいけど、フレイさんはどう?」
あんながフレイに尋ねる。
フレイは一瞬、驚いたように目を丸くした。
普段なら、少し遠慮してから答えるところだ。
けれど――。
「私も強くなりたいです!」
勢いよく答えた。
「よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げる。
いつもは少し引っ込み思案なフレイが、珍しくやる気満々だ。
「フスン……!」
鼻を小さく鳴らしている。
どうやら、魔法を教えてもらえることが嬉しくて仕方ないらしい。
「あらあら。そんなに嬉しいの?」
あんなが微笑む。
「はい!」
フレイは元気よく頷いた。
「じゃあ、明日から一緒に訓練するってことでいいですか?」
ゆうきが確認する。
「ああ」
イザナさんが頷く。
「はい! 頑張ります!」
フレイも嬉しそうに答えた。
こうして――。
翌日から、私たちは勇者一行と合同で訓練することになった。




