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こちら神の子ですが異世界が喧嘩を売ってきますが、生き残った人類が強すぎです。  作者: ネコ雲


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6/20

神の子修行する


ツクヨたちと焼き肉を食べた翌朝。


テン、タケミ、フレイの三人は、イザナの道場にいた。


道場はイザナの家と繋がっており、家からすぐに行き来できる造りになっている。


昨夜は三人が揃って寝られる場所がなかったため、ここで寝泊まりすることになった。


朝の道場には、静かな空気が流れていた。


四人は床に正座し、目を閉じている。


「…………」


誰も話さない。


聞こえるのは、道場を通り抜ける風の音だけだった。


テンは背筋を伸ばし、膝の上へ手を置いている。


タケミも黙って目を閉じていた。


フレイは少し眠そうだったが、それでも必死に姿勢を崩さない。


三人にとっては、これが初めての本格的な修行だった。


やがて三十分が経つ。


イザナがゆっくりと目を開いた。


「よし!」


三人も目を開く。


「次は素振り千回だ」


「千回ですか?」


テンが思わず聞き返す。


「そうだ。俺は毎日やってる」


イザナは立ち上がり、竹刀を手に取った。


テンも竹刀を握る。


タケミも負けじと構えた。


「俺もやる」


フレイは置いていた杖を横へ置き、竹刀を両手で握った。


「私も頑張るです、お師匠様」


「よし、始めるぞ」


四人が一斉に竹刀を振り下ろす。


ヒュンッ!


竹刀が空気を切る音が、道場へ響いた。


最初は軽快だった三人の動きも、百回、二百回と数を重ねるにつれて重くなっていく。


テンは額に汗を浮かべながらも、一定の速度を崩さない。


タケミは歯を食いしばり、時折イザナの動きを盗み見る。


そしてフレイは――。


「はぁ……はぁ……」


早くも肩で息をしていた。


それでも竹刀を止めない。


腕が重い。


握っている手も痛い。


それでも、フレイは竹刀を振り続けた。


しばらくして、フレイが息を整えながら口を開く。


「お師匠様、私は魔法使いなんですけど……素振りって意味あるんですかです?」


「ある」


イザナは素振りを続けながら答えた。


「基礎体力をつけるためだ。それに、魔法使いだからって敵が遠くから攻撃してくれるとは限らない」


「……!」


フレイが顔を上げる。


「敵に懐へ入られた時、逃げる体力がなければ終わりだ。短剣でも使えれば、生き残れる可能性は上がる」


フレイは自分の足へ視線を落とした。


昨日、戦場でイザナに一瞬で距離を詰められたことを思い出す。


あの時は、何もできなかった。


「逃げるためにも……体力が必要なんですね」


「そういうことだ」


「分かりましたです!」


フレイは竹刀を握り直した。


ただ振るだけではない。


この素振りも、生き残るための力になる。


そう思うと、重くなった腕にもう一度力が入った。


「……あと少しです!」


フレイは歯を食いしばり、竹刀を振り下ろす。


ヒュンッ!


その隣では、タケミがイザナへ声をかけた。


「イザナ」


「なんだ?」


「俺もお前ぐらい強くなれるか?」


イザナは一度だけタケミを見る。


「修行次第だ」


「……絶対なってやる」


タケミは竹刀を握り直した。


昨日、何度攻撃してもイザナには届かなかった。


悔しかった。


だからこそ、タケミはイザナの動きを目で追っていた。


速い。


だが、ただ腕が速いわけではない。


足がほとんどぶれていない。


竹刀を振るたび、身体全体が無駄なく動いている。


「……足か」


タケミが小さく呟く。


イザナは何も言わない。


ただ、一定の動きで素振りを続けている。


タケミも足元を意識しながら竹刀を振り始めた。


テンは二人の会話を聞きながらも、黙々と素振りを続けている。


やがて――。


「千本終わりだ」


最初に素振りを終えたのはイザナ。


続いてテン。


その次にタケミ。


そして最後はフレイだった。


「はぁ……はぁ……もう腕が上がらないです……」


フレイの腕がぷるぷると震えている。


それでも、竹刀を下ろした顔には達成感が浮かんでいた。


「……終わりましたです」


「よくやったな」


イザナが短く褒める。


フレイは顔を上げた。


「はい!」


嬉しそうな笑顔がこぼれる。


休憩を挟み、次の修行へ移る。


「次は実戦だ」


イザナが竹刀を構えた。


「三人まとめて俺にかかってこい」


テンとタケミが剣を構え、フレイは少し後ろへ下がる。


「俺からはあまり攻撃しない。だから遠慮せず打ち込んでこい」


「分かりました!」


テンが駆け出す。


「行くぞ!」


タケミも続く。


「援護するです!」


フレイは二人の後方から杖を構え、魔法を放った。


石の礫が飛ぶ。


テンとタケミが左右から同時に斬りかかった。


正面と横。


さらに後方から魔法。


三方向からの攻撃だった。


だが――。


イザナは腰を落とした。


ヒュッ!


二人の剣が、頭上を通過する。


そのままイザナは身体を回転させ、二人の足元へ竹刀を滑らせた。


「うわっ!」


「ぐっ!」


足を払われ、テンとタケミの身体が同時に地面へ倒れる。


その直後――。


「えっ?」


フレイの目の前に、イザナがいた。


トン。


竹刀の先端が、フレイの頭へ軽く触れる。


「……」


フレイが固まる。


「今のが実戦なら、お前は倒されてる」


「……はいです」


イザナは竹刀を下ろした。


「魔法使いだからって、後ろにいれば安全とは限らない。敵は一気に距離を詰めてくる」


フレイは自分の足元を見る。


「だったら……逃げながら魔法を撃てばいいですか?」


「それも一つの方法だ」


イザナが頷く。


「魔法を撃つことだけに集中するな。敵との距離を常に意識しろ」


「分かりましたです!」


フレイは杖を握り直した。


今まで自分は、魔法を当てることばかり考えていた。


けれど、敵との距離を見ることも戦いなのだ。


倒れていたテンとタケミも立ち上がる。


「もう一回だ!」


タケミが剣を構える。


テンも構え直した。


イザナが二人を見る。


「しっかりフレイを守れ」


「……!」


「今のままじゃ、実戦ならフレイを守る前にお前らが倒されるぞ」


タケミの表情が変わった。


テンも剣を握る手に力を込める。


「行きます!」


今度は二人とも、ただ攻撃するのではなく、フレイの位置を意識して動く。


テンが正面から斬り込む。


タケミは少し遅れて横から攻める。


イザナはテンの剣を竹刀で弾いた。


ガキン!


続いて、タケミの剣が迫る。


イザナは身体をひねってかわした。


その瞬間――。


「今です!」


フレイが叫ぶ。


テンとタケミの死角から石の礫が飛ぶ。


イザナは竹刀を振った。


カンッ!


飛んできた石が弾き飛ばされる。


「まだです!」


フレイはイザナの動きを見る。


次にどこへ動くのか。


距離を取るのか。


テンたちへ近づくのか。


昨日までなら、何も考えずに魔法を撃っていた。


だが、今は違う。


イザナがタケミへ踏み込んだ瞬間――。


「そこです!」


フレイの礫が飛ぶ。


イザナは身体をひねってかわした。


「……今のは悪くない」


初めてイザナがフレイの攻撃を褒める。


フレイの顔がぱっと明るくなった。


「本当ですか!」


「ああ。相手の動きを見て撃てていた」


「やったです!」


フレイが嬉しそうに笑う。


その隙を見て、テンが踏み込んだ。


「今度こそ!」


剣を振る。


イザナが竹刀で受ける。


ガキン!


テンの腕に衝撃が伝わった。


そのまま押し返される。


だが、テンはすぐに足を踏み替えた。


昨日までなら、力任せにもう一度斬り込んでいた。


けれど今日は違う。


イザナの足元を見る。


次に動く方向を読む。


そして――。


「そこ!」


テンが一歩踏み込む。


イザナが僅かに目を見開いた。


剣先がイザナの袖をかすめる。


「……!」


テン自身も驚いた。


「当たった……?」


イザナは自分の袖を見る。


ほんの僅かに、剣先が触れた跡が残っていた。


「今のは良かったぞ」


「ありがとうございます!」


テンの顔が嬉しそうに輝く。


昨日までは、イザナに攻撃が届く気配すらなかった。


初めて、自分の力で一歩近づけた。


その隣では、タケミが悔しそうに歯を食いしばっていた。


「俺も……!」


タケミはイザナの足元を見る。


素振りの時に気づいた。


イザナは腕だけで攻撃しているわけではない。


足の位置を変え、身体全体で竹刀を振っている。


タケミも足を使う。


一歩。


二歩。


イザナとの距離を詰める。


「そこだ!」


タケミが斬り込んだ。


イザナが竹刀で受ける。


ガキン!


だが――。


「まだ甘い」


イザナがタケミの剣を弾き飛ばした。


「くっ!」


タケミは悔しそうに顔を歪める。


「でも、さっきより動きは良くなった」


「……本当か?」


「ああ」


タケミは落ちた剣を拾う。


「なら、もっとやる!」


「その意気だ」


イザナが笑う。


そこから三人は何度も立ち向かった。


倒されても立ち上がる。


弾かれても、また攻撃する。


少しずつ動きが乱れ、息が上がっていく。


それでも三人は諦めなかった。


やがて二十分ほど経ったところで――。


「一旦休憩だ」


「はぁ……はぁ……」


三人はその場に座り込んだ。


フレイは両手を膝へ置き、肩を大きく上下させている。


テンも額の汗を拭う。


タケミは息を整えながら、握った拳を見つめていた。


だが、休憩が終われば再び立ち上がった。


同じ修行を三セット。


最後の頃には、三人とも腕も足も限界に近かった。


ようやく修行が終わる。


テンは肩で息をしながら、イザナを見る。


「イザナさん……今日は少しだけ、攻撃が届きました」


「一回だけだけどな」


「はい。でも、昨日は一度も届かなかったので嬉しいです」


テンは疲れながらも笑った。


タケミは悔しそうに拳を握る。


「俺はまだ一発も当てられなかった」


「けど、昨日より動きは良くなってる」


「……!」


タケミの表情が少しだけ明るくなる。


「次は絶対当てる」


フレイも杖を握りしめた。


「私も相手の動きを見て魔法を撃てるようになったです!」


「そうだな」


イザナは三人を見る。


「今日覚えたことを忘れるな」


「はい!」


「おう!」


「はいです、お師匠様!」


イザナは竹刀を肩に担いだ。


「じゃあ、明日からもっと厳しくするぞ」


「えっ……」


フレイの顔が引きつる。


タケミは拳を握り、テンは苦笑した。


それでも――。


三人の顔には、昨日までにはなかったものがあった。


テンは、相手の動きを見ること。


タケミは、足を使って距離を詰めること。


フレイは、敵との距離と動きを意識して魔法を撃つこと。


まだ小さな変化だ。


けれど、それぞれが自分なりに掴んだものだった。


テンは剣を握る。


タケミは足元を見る。


フレイは杖を握り直す。


そして三人は、疲れ切った身体を引きずるように道場を出ていった。


本格的な修行は、まだ始まったばかりだった。

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