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こちら神の子ですが異世界が喧嘩を売ってきますが、生き残った人類が強すぎです。  作者: ネコ雲


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14/20

神の子、荒野を行く


 イナミに連れられ、テンたちは戦場から離れていく。


 その後ろには、ツクヨたちも続いていた。


 誰も口数が多くない。


 長い戦いの直後なのだ。身体も、精神も、限界に近かった。


 背後からは、まだ下位の悪魔が追ってくる。


 だが――。


 ザシュッ!


 イナミの刀が閃く。


 迫ってきた悪魔の首が飛び、その身体が荒野へ転がった。


 振り返ることすらない。


 また一体。


 ザシュッ!


 さらに一体。


 イナミは足を止めず、向かってくる悪魔だけを正確に斬り伏せていく。


 その姿を見ながら、タケミは何も言わなかった。


「テン姉、頑張るです。私がすぐ治すです」


 タマの背中に乗ったテンへ、フレイが必死に治癒魔法をかけ続けている。


 しかし、傷は少しずつしか塞がっていかなかった。


 三本の槍がテンの身体を貫いたのだ。


 傷はあまりにも深い。


 タマも、できる限り身体を揺らさないよう慎重に走っている。


 それでも、荒野の凹凸を完全に避けることはできない。


 わずかな振動が背中から伝わるたび、テンの肩が小さく震えた。


「……っ」


 唇を噛み、痛みに耐える。


 その声を聞くたび、タケミの胸が締め付けられた。


 タケミは黙って歩いていた。


 俯いたまま、唇を強く噛み締める。


 悔しくて仕方がない。


 ――俺は何てダサいんだ。


 神だの何だのと調子に乗っていた。


 なのに、実際は弱い。


 弱くて、弱くて――。


 テン一人すら守れなかった。


 あの戦場で、自分にできたことはほとんどなかった。


 イザナやイナミ、ゆうき。


 町の人たち。


 皆が戦っていた。


 なのに自分は、ただ守られているだけだった。


 誰よりも弱い。


「……くそっ」


 堪えていたものが、とうとう溢れた。


 タケミの目から涙がこぼれ落ちる。


 慌てて腕で拭うが、次から次へと滲んでくる。


 それに気づいたイナミが、ちらりとタケミを見る。


 だが、何も言わなかった。


 ただ、ほんの少しだけ口元を緩める。


 今は、そっとしておいた方がいい。


 そう判断したのだ。


 しばらく走り続け――。


 やがて一行は町を抜け、門とは反対側の荒野へ出た。


 背後に見えていた町の姿が、少しずつ遠ざかっていく。


 追ってきていた下位の悪魔たちも、いつの間にか姿を見せなくなっていた。


 だが、まだ十分な距離を離れたわけではない。


 怪我を負っているるりは、苦しそうに眉を寄せている。


 そして、昨夜から戦い続けていたツクヨたちは、誰が見ても疲労困憊だった。


「追っても来ないし、一旦歩きましょ。もう体力の限界だわ」


 ツクヨが額の汗を拭い、足を止める。


「そうじゃ。年寄りをこんなにコキ使いおって……」


 山ばぁも腰を押さえながら、荒い息の合間に愚痴をこぼした。


 るりは何も言わない。


 いや――。


 正確には、言う余裕すらないようだった。


 普段なら真っ先に何か言い返しそうな彼女が、黙ったまま肩で息をしている。


 テンほどではないものの、るりも重傷だ。


 骨も何本か折れている可能性がある。


「そうだな。一旦歩くか」


 イナミも、この先の道程を考えてペースを落とす。


 その時だった。


 遠く離れた戦場から――。


 ズドォォォン!


 大きな音が響いた。


 地面を伝わってきた振動が、荒野の足元まで揺らす。


 続いて、空気そのものを震わせるような咆哮が響き渡った。


「……!」


 テンが目を見開く。


「イザナさん……」


 身体を起こそうとする。


 しかし、その肩をフレイが慌てて押さえた。


「テン姉、動いちゃ駄目です!」


「でも……」


 テンの視線は、遠く離れた戦場へ向いている。


「イザナのことが心配?」


 ツクヨがテンを見る。


 そして、少し自嘲するように笑った。


「けど、心配はいらないわよ」


「……?」


 テンとタケミ、フレイがツクヨを見る。


「私たちがいなくなったおかげで、ようやく本気になって戦えるんだから」


「本気……?」


 神の子である三人には、その言葉の意味がよく分からない。


 ツクヨは三人の表情を見て、苦笑する。


「皆、強いってことよ。あんな悪魔や魔人に負けないくらいにね」


「そうよ!」


 るりも苦しそうにしながら、笑顔を作った。


「それに、ゆうきもいるから大丈夫よ」


「……」


 テンたちは顔を見合わせる。


 ツクヨとるりがそこまで言うのなら、大丈夫なのだろう。


 そう思うしかなかった。


 テンの表情にも、ほんの少しだけ安堵が浮かぶ。


 だが――。


「……ふふ」


 笑顔を浮かべていたるりの身体が、突然ふらついた。


「るり!」


 ドサッ。


 そのまま地面へ仰向けに倒れる。


 あんなが慌てて駆け寄り、その身体を抱き起こした。


 近くで見ると、るりの顔色はかなり悪い。


「私も……限界みたい」


 るりが薄く目を開け、弱々しく呟く。


「喋らないで!」


 あんながすぐに治癒魔法をかける。


 るりには目立った外傷が少ない。


 だからこそ、折れた骨が内臓を傷つけている可能性もある。


 あんなは額に汗を浮かべながら、懸命に治癒を続けた。


 すでにイザナとテンの治療も続けている。


 疲労は明らかだった。


 それでも、手を止めない。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 るりの苦しそうだった表情が和らいでいく。


 それを確認したイナミは、このままでは師匠のいる町まで辿り着けないと判断した。


「ここで少し休もう」


 荒野を見渡し、比較的平らな場所を探す。


 やがて一行は足を止めた。


 テンとるりを横に寝かせ、他の者たちも地面へ腰を下ろす。


「イナミの師匠の所までは、どのくらいかかるの?」


 ツクヨが尋ねる。


「そうだな……三日ぐらいだな」


「三日……」


 ツクヨが考え込む。


 その言葉の重さを、全員が感じていた。


 今の身体で三日。


 決して短い距離ではない。


 そこへタケミが口を挟んだ。


「そんなにかかるなら、戦いが終わった頃に町へ戻ればいいんじゃねぇか?」


「それは無理よ」


 ツクヨが首を横に振る。


「あの町は、もうダメ」


「何でだよ?」


「あの町の人たちが本気を出せば、戦いの余波だけで町が壊滅するわ」


 タケミが黙る。


 ツクヨの言う通りだった。


 町の人々は強い。


 だが、強いからこそ、全力で戦えば周囲への被害も大きくなる。


 今まで苦戦していた理由の一つも、それだった。


 自分たちの町を守りながら戦う必要があったのだ。


「それに、師匠と俺たちが住んでいる町の方が安全だ」


 イナミが続ける。


「ほとんど魔物とかいう奴らが出てこないからな」


「イナミさんは、あれが魔物って知ってたんですね」


 あんなが少し驚いた顔をする。


「異世界帰りの奴らが言ってたからな」


「なるほど……」


 あんなは納得したように頷いた。


 勇者一行も魔物という言葉を使っていた。


 だが、イザナを含めた町の人々には、まだあまり定着していない呼び方だった。


 十分ほど休んだところで、一行は再び歩き始めた。


 短い休息だった。


 それでも、その間に少し治癒を受けられたことで、テンとるりの顔色は先ほどより良くなっている。


 意識もしっかりしてきた。


 ただし、まだ歩ける状態ではない。


 二人は引き続きタマの背中に乗っている。


 フレイとあんなも、二人が「もう大丈夫」と言ったことで、治癒を一旦中断していた。


 荒野はどこまでも続いている。


 乾いた大地を、一行はひたすら歩いていく。


 しばらくは、誰も口を開かなかった。


 戦いの疲労が身体に残っている。


 足を動かすだけでも重い。


 そんな中――。


「……腹減った」


 タケミが腹を押さえた。


「そういえば、食料がないな」


 イナミが周囲を見渡す。


 急いで町を出たため、食料を持ち出す余裕がなかったのだ。


 水なら問題ない。


 あんなとフレイが魔法で用意できる。


 だが、食べ物はそうはいかない。


「とりあえず、荒野にいる野生動物を捕まえるしかないか」


 イナミによれば、この荒野には十年前の戦いで野生化した動物が多くいるらしい。


 ウサギや猪なども、時々見かけるという。


「じゃあ、俺が――」


「俺が行ってくる」


 タケミが言い終える前に、イナミが立ち上がった。


「お前はここにいろ」


「……分かったよ」


 タケミは悔しそうにしながらも頷いた。


 まだ自分では任せてもらえない。


 その事実が、胸に引っかかった。


 それからしばらくして――。


 町を出てから四時間ほど経った頃。


 昼時になり、一行の腹も限界に近づいていた。


 そこへ――。


「戻ったぞ」


 イナミが五羽のウサギを手に戻ってきた。


「おお!」


 腹を空かせていたタケミの顔が明るくなる。


「わしがご飯を作ってやろう」


 山ばぁが不気味な笑みを浮かべた。


 そして、自前の包丁を取り出す。


 スッ。


 ザクッ。


 スパッ。


 刃が走る。


 あれだけ大きな包丁を使っているにもかかわらず、山ばぁの動きには一切の迷いがない。


 あっという間に五羽のウサギが捌かれていく。


「……相変わらず凄いな」


 イナミが呟く。


 ツクヨによれば、普段から山ばぁが皆の食事を作っているらしい。


「あんな、火を頼む」


「分かったわ」


 あんなが魔法で火を起こす。


 捌いたウサギを火にかけ、焼いていく。


 調味料も調理器具もない。


 できあがったのは、非常にシンプルなウサギ焼きだった。


「……」


 皆が一口食べる。


 そして――。


 何とも言えない顔になった。


 味付けがない。


 美味しいとは言い難い。


「……肉の味しかしねぇ」


 タケミが呟く。


 鬼太郎とタマにいたっては、量そのものが足りないらしい。


 二人とも、皿を見つめたままどこか元気がない。


「私は……まだ食欲がないです」


 テンは水だけを口にした。


 るりも同じだった。


 まだ身体が食事を受け付ける状態ではない。


 それでも、何も食べないわけにはいかない。


 少しだけ休んだ後、一行は再び歩き始めた。


 午後からは、少しだけペースを上げる。


 途中――。


「猪だ!」


 荒野の向こうに、一頭の猪が姿を現した。


 その瞬間。


「任せろ!」


 鬼太郎が飛び出した。


 昼食が足りなかったこともあり、いつも以上に積極的だ。


 猪を追いかけ――。


 しばらくして、二頭の猪を捕まえて戻ってきた。


「これで夜は腹いっぱい食えるぞ!」


 鬼太郎が嬉しそうに笑う。


 ようやく夜の食料も確保できた。


 それからの道中は、特に大きな問題も起こらなかった。


 ひたすら荒野を進み――。


 やがて、日が落ち始める。


「今日はここまでだな」


 イナミが足を止める。


 さすがに、このまま歩き続ければ身体がもたない。


 荒野の中で比較的安全そうな場所を選び、一行はそこで休むことにした。


 夜の食事は、昼間に捕まえた猪だ。


 調理らしい調理もできない。


 だからこそ――。


 丸焼き。


 炭火でじっくり焼かれた猪から、香ばしい匂いが漂う。


「いただきます!」


 鬼太郎とタマが勢いよく食べ始めた。


 腹を空かせていた二人は、なんと一頭を丸々食べきってしまった。


 残ったもう一頭を、他の皆で分ける。


 テンとるりも昼よりは少し食欲が戻っていた。


 それでも、まだ本調子ではない。


 食事を終える頃には、皆の身体に疲労が一気に押し寄せてきた。


 眠気には勝てない。


 寝床を用意する余裕もなく――。


 一行は荒野の地面にそのまま横になった。


 誰かが話すこともない。


 ただ、今日一日を生き延びた身体を休める。


 こうして、長い一日の終わりを迎える。


 明日もまた、師匠のいる町を目指して歩かなければならない。

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