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こちら神の子ですが異世界が喧嘩を売ってきますが、生き残った人類が強すぎです。  作者: ネコ雲


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11/20

夜の侵攻


 イザナは愚痴をこぼしながらも、戦いに出る準備を進めていた。


 他の皆も、それぞれ武器や荷物を整えていく。


 ツクヨが先ほど言っていた通り、夜に異世界からの侵攻が来るのは、およそ二年ぶりのことだった。


「私は先に行ってるわね」


 そう言うと、ツクヨはどこか嬉しそうな顔を浮かべ、戦場へ向かって走っていった。


 その背中を見送ったテンは、隣にいるイザナへ目を向ける。


 いつものイザナなら、もうとっくに準備を終えて戦場へ向かっているはずだ。


 それなのに、今日は妙にゆっくりしている。


「イザナさん、ツクヨさん行っちゃいましたよ。私達も早く行きましょ」


「そんなに急がなくていいぞ。どうせ夜はツクヨの独壇場だからな」


「独壇場?」


 テンが首を傾げる。


 初めて聞く話だったのは、勇者一行も同じらしい。


 ゆうき、るり、あんなも揃ってイザナへ視線を向けた。


「ツクヨの仲間の妖怪達は、夜になると本領を発揮するからな。下手に手を出したら、こっちまで巻き込まれるぞ」


「そんなに凄いんですか?」


 テンが驚いて聞き返す。


「見れば分かる」


 イザナはそれだけ言うと、ようやく歩き始めた。


 百聞は一見に如かず。


 結局、皆で戦場へ向かうことになった。


     ◇


 町の門へ近づくにつれ、地面を揺らすような音が聞こえてくる。


 門の向こうでは、異世界へと繋がる歪みが大きく口を開けていた。


 その奥から、次々と魔物が姿を現している。


「あれはオーガですね」


 ゆうきが目を凝らして呟く。


「そうだな」


 イザナも頷いた。


 鬼のような風貌。


 巨大な身体。


 見るからに人間を襲うために現れた魔物だ。


 テンもその数を確認しようと目を向ける。


 その時だった。


「あいつは外れだな」


「え?」


「オーガは食べても美味しくない」


「…………」


 テンは思わずオーガを見た。


 巨大な身体に凶悪な顔。


 その手には、人間など簡単に叩き潰せそうな武器まで握られている。


 それなのに――。


 イザナは、食べられるかどうかを気にしていた。


 テンは呆れたように息を吐く。


 ――こんなのまで食べようとするなんて、人類の食欲って凄いわね。


 そんなことを考えている間にも、歪みからはオーガが次々と現れる。


 一体。


 二体。


 十体。


 数える間にも、さらに後ろから姿を現す。


 その数はどんどん増えていき、今にも町へ雪崩れ込んできそうな勢いだった。


「イザナさん……」


 テンの表情が険しくなる。


 しかし、隣にいるイザナは落ち着き払っていた。


「大丈夫だ。もうすぐ来るんじゃないか」


「もうすぐって……」


 これだけの数を前にして、どうしてそんなに落ち着いていられるのか。


 テンが疑問に思った、その時だった。


 ――ドォォォンッ!!


 凄まじい音が響き渡った。


 地面まで大きく揺れる。


「な、何!?」


 テンが慌てて門の方を見る。


 すると――。


「……え?」


 そこには、先ほどまでなかったものが建っていた。


 白い建物。


 三階建て。


 まるで城のような巨大な建物が、門の向こうにそびえ立っている。


「…………」


 テンは口をあんぐりと開けたまま、その建物を見つめた。


 他の皆も目を見開いている。


 だが、その中でもテンのリアクションが一番大きかった。


「イザナさん……あれ、何?」


「あれは、おかっぱ姫だ」


「名前だけじゃ分からないわよ!」


 テンは思わず叫んだ。


 しかし、イザナのいる場所からでは建物の反対側までは見えない。


 いったい何なのか。


 なぜ城のようなものが突然現れたのか。


 聞きたいことはいくらでもある。


 だが、これ以上聞いてもイザナが面倒くさがるのは目に見えていた。


「……そういうものなのね」


 テンは不満そうに呟きながらも、とりあえず納得することにした。


「私に任せて」


 そんな皆の様子を見たあんなが前へ出る。


 そして、静かに魔法を発動させた。


 すると――。


 夜空に大きな映像が浮かび上がった。


「おお……!」


 まるで巨大な画面のように、戦場の様子が夜空へ映し出される。


 これなら、町からでも戦場の様子を確認できる。


 皆から感嘆の声が上がった。


 映像の中には、白い城と、そこに立つおかっぱ姫の姿が映っている。


 その瞬間――。


「……!」


 ゆうきの目が輝いた。


 普段の落ち着いた表情とは明らかに違う。


 映像に釘付けになり、目を輝かせている。


 ――あれは、多分……城に住まうと言われる妖怪、長壁姫じゃないかな。


 実はゆうき。


 異世界へ召喚される前は、怪談や妖怪などのオカルト系が大好きなマニアだった。


 花子やくいなたちと初めて会った時に妙に興奮していたのも、そのためである。


 勇者としては、絶対に知られたくない秘密だった。


     ◇


「あんた達のせいで、私の綺麗なお城が汚い血で汚れちゃったじゃない!」


 おかっぱ姫が怒鳴っている。


 先ほど落ちてきた際に、オーガの血で城が汚れてしまったらしい。


 おかっぱ姫は城の天守閣に立ち、汚れた壁を指差して怒りを露わにしている。


 そこへツクヨがやってくる。


「おかっぱ、危ないじゃないの。私達まで巻き添えにする気?」


「誰がおかっぱよ! 姫をつけなさいよ!」


 おかっぱ姫は頬を膨らませ、顔を背けた。


「ツクヨなんて、巻き添えで潰されたら良かったのに」


「なんですって?」


 ツクヨの眉がピクリと動く。


 次の瞬間――。


 ツクヨがおかっぱ姫の頬をつねり上げた。


「痛い痛い!」


「大体、あなたがこんな所に落ちるから城が汚れたんでしょ! 自業自得じゃない!」


「痛いってば!」


 ツクヨの顔が鬼のように険しくなる。


 先ほどまで偉そうにしていたおかっぱ姫は、見る見るうちに涙目になっていく。


「痛いから離してよぉ……」


 見た目は幼いおかっぱ姫。


 そんな彼女が、年相応の子供のような表情になっている。


 それを見たテンたちは、思わず生暖かい目を向けた。


 ――背伸びしたい年頃なのね。


     ◇


「あれは、わらこじゃないか。久し振りに見たな」


 イザナが呟いた。


 その視線の先。


 おかっぱ姫の頭には、小さな女の子がちょこんと乗っていた。


 ゆうきもまた、その姿を見て目を輝かせる。


 ――今度は座敷わらしか……!


 どうやら、先ほどから映像に映る妖怪たちが気になって仕方がないらしい。


「わらこって誰ですか?」


 皆が気になっていることを、テンが代表して尋ねる。


 イザナは、おかっぱ姫の頭に乗っている小さな女の子を指差した。


「わらこだ」


「それは名前ですよね?」


「戦う力はない。だが、良いことが起きる不思議な力を持ってる」


「へぇ……」


 テンは興味深そうにわらこを見る。


 最初に現れた城のインパクトが強すぎて、まだ頭が追いついていなかった。


 それでも、今の説明を聞いて、少しだけ納得する。


     ◇


 町で戦場を見守る人々の声が、門の近くまで響いていた。


「頑張れー!」


「やっちまえ!」


 声援を受けるように、ツクヨの仲間たちも次々と戦場へ加わっていく。


 オーガとよく似た姿。


 だが、それよりもさらに巨大で、真っ赤な身体。


 手には巨大な金棒。


 その姿を見れば、誰なのかは何となく想像できる。


 さらに、赤い顔に長い鼻を持った者。


 そして――。


「……あれ?」


 テンが目を凝らす。


 見覚えのある包丁を持ったおばあちゃんまでいる。


「鬼太郎と、くらまと山ばぁまで来てるな」


 イザナが夜空に映し出された戦場を眺めながら呟いた。


 テンたちは誰が誰なのか分からない。


 だが、さっきからイザナに聞いてばかりだ。


 今回は、自分で考えてみることにした。


 テンは黙って戦場を見つめる。


 そして頭の中で、自分の知識と照らし合わせていく。


 ――真っ赤な身体のあれは鬼ね。


 ――だから鬼太郎。


 ――次にいる、鼻が長いのがくらま天狗で、くらま。


 ――包丁を持ったおばあちゃんがヤマンバで、山ばぁ……かな。


「…………」


 テンは真剣な顔で考え続ける。


 考えがまとまれば少し口元が緩み、分からなくなると眉間に皺が寄る。


 その表情は、考えていることがそのまま顔に出ているようだった。


「何て顔してんだよ」


 そんなテンの横から、イナミが声をかけた。


「何よ」


「さっきから笑ったり、難しい顔したり。百面相でもしてんのか?」


「別にいいでしょ」


 考え事を邪魔されたテンは、不機嫌そうにイナミを見る。


 そして――。


 先ほどの模擬戦を思い出した。


 自分を散々盾にして、ボロボロにした男。


 その記憶が蘇った途端、テンの機嫌が一気に悪くなる。


「何よ。貴方も戦いに行って殺られてきたら?」


「お前、まだ根に持ってんのか?」


「当たり前でしょ!」


 テンはそっぽを向く。


「私を盾にして散々攻撃させたくせに」


「いやぁ、あれは面白かったな」


「……!」


 悪びれる様子もなく、イナミは楽しそうに笑った。


 テンのこめかみに青筋が浮かぶ。


「本当に嫌な奴ね」


「そう褒めるなよ」


「褒めてない!」


 テンが睨みつける。


 イナミはそんなテンを見て、また笑った。


 その笑い声が、余計に腹立たしい。


「……もう知らない!」


 テンは再び戦場へ視線を戻した。


 その横で、イナミは楽しそうに笑い続けていた。


 夜の戦場では、妖怪たちとオーガの戦いがさらに激しさを増している。


 門の向こうでは、巨大な魔物が次々と倒されていく。


 町に響く歓声と、遠くから聞こえる戦闘音。


 テンたちは、夜の戦場で繰り広げられる戦いの行方を見守っていた。

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