ストーカーの影
端田は高校を卒業するまで、父方の祖父母と同居する形で二世帯住宅に住んでいたそうだ。山に囲まれた静かな村で、両親とも同じ地域の出身だったこともあり、端田自身もほとんど地元を出ないまま育った。
だからか、東京の大学に合格したことは家族にとっても快挙として受け入れられたという。
「祖父ちゃんなんか、いつ東京に行くんだ、いつ大学に行くんだって、俺より喜んでさ」
帰省の当日。新幹線の中で端田は家族の話と共に問題になった「不審者騒ぎ」の話をしてくれた。
「卒業式の日だったかな。いつもよりテンションも上がってて、家に帰る前にいろんなとこ見て回ったんだ」
子どもの頃友人と遊んだ商店の前や小学校、中学校。そして家の裏手にある山に向かう道へ興味本位で入った時、それが起きた。
「帰りちょっと道がわかんなくなったところでさ、白い服着た背の高い人にあったんだよ。地域の人かなって思って帰り道聞いたら、すうって帰り道を指してくれて、それで帰ってきたんだ」
ただ、その頃から不思議な視線を家の近くで感じるようになったという。
「部屋で漫画読んでてもさ、カーテンの隙間から覗いてる感じがするんだ。おかしいだろ、俺の部屋二階なんだぜ。しかも庭に面してんの。脚立でも持ってきて覗いてるんだとしたらタチ悪すぎる」
流石に気持ちが悪くなった端田は、両親と祖父母に相談した。
「したら祖父ちゃん、顔色かわっちゃってさ。引っ越しの日付決まってたのに、引っ越しを早めようとか言い出して。普通警察だろこういう時。しかも急用でもない限り盆正月も帰ってくるなって。こっちから出向くからって」
さらに祖父は家を出るとき、「急用でも帰ってくる時は必ず誰か友人を連れてきなさい」と強く彼に命じたのだ。理由を聞いても、「お前が東京でどんな人に囲まれているか知りたい」としか答えてくれず、しかし帰省に同行してくれる友人がいない場合は「帰ってくるな」の一点張り。そのせいで、端田はこの10年近くまともに帰省できていなかったという。
「それが今回の法要の時の帰省の条件?」
次々と山が背後へ流れていくのを眺めながら僕はお茶を飲んだ。問いかけると、ミントのタブレットを噛み砕きながら端田は頷く。本人もおそらく合点がいっていないのだろう。
「不審者が怖いのは確かだけどさ、俺が期待したのは警察に相談しようってことだったわけだよ。父さんもそういったんだけど、祖父ちゃんは警察はあてにならんって言い張って、最後まで首を縦に振らなかった」
僕はスマホのメモ機能を開き、今聞いたことをメモしていく。
「つまり端田のお祖父さんは、不審者のことを警察に相談して対策するより、住まいを変えて逃げた方がいいって言ったんだな」
「そういうこと。そりゃもう家を出る孫だけどさ」
果たしてそれだけだろうか。孫の進学を我がことのように喜んだ祖父だ。
「なんか、お祖父さんものすごく警戒してるな」
「不審者に?」
「そう、警察に届けるより不審者から端田を遠ざける選択をしたのもそのせいかも」
まあ、実際に、端田の実家につけば何かわかることもあるかも知れない。僕はスマホをしまい、再びお茶のペットボトルを手に取った。




