第98話 白竜皇
部屋を静かな沈黙が包んでいた。
リュカは閉じた古文書を見つめ、小さく息を吐く。
「結局」
「肝心なところは分からなかったね」
「うん」
フィオナも静かに頷いた。
魔王ニコラス。
魔核融合体。
千年を生きた理由。
そこまでは分かった。
だが。
魔核融合体の詳細も。
その後どうなったのかも。
肝心な記録は、すべて失われていた。
再び沈黙が流れる。
その時だった。
フィオナが何かを思い出したように顔を上げる。
「一人だけ」
リュカも顔を上げる。
「知ってるかもしれない人がいる」
「え?」
フィオナは静かに答えた。
「白竜皇オルド様」
聞いたことのない名前だった。
「白竜皇?」
リュカが首を傾げる。
フィオナはゆっくりと語り始めた。
「神話の時代」
「竜神皇エーテル様が世界を治めていた頃から生きる、最古の竜」
「五大竜王の頂点に立つお方」
「ヴァイスラント帝国初代皇帝と盟約を結び」
「今なお、歴代皇帝と皇妃を選び続けている白竜皇」
リュカは思わず息を呑んだ。
それはもはや、歴史の生き証人だった。
神話。
英雄。
王国の興亡。
数え切れない時代を、その目で見続けてきた存在。
フィオナは続ける。
「オルド様は」
「世界の始まりから、幾度となく文明の興亡を見届けてきた」
「私のお父さんよりも、ずっと長く生きている」
だからこそ。
リュカは自然と、その先の言葉を察した。
「もしかして……」
フィオナは静かに頷く。
「オルド様なら」
「魔王ニコラスのことも」
「魔核融合体のことも」
「何か知っているかもしれない」
その一言で。
リュカの胸に、再び希望が灯る。
世界で最も長い時を生きる竜。
もし、その方でも知らないのなら。
もう誰も知らないだろう。
だからこそ。
会いに行く価値があった。
リュカは力強く頷く。
「行こう」
「白竜皇オルド様に会いに」
フィオナも微笑む。
「うん」
二人は再び旅支度を始めた。
目指すは北方。
白竜皇オルドが暮らす国――アルカ=ヴェル竜皇国だった。




