第97話 禁忌
二人は古文書を読み進める。
そこには、魔王ニコラスという人物について、さらに詳しい記録が残されていた。
「妖精誘導法……」
リュカは思わず声を漏らす。
フィオナも隣から文献を覗き込んだ。
「本当だ」
「ニコラスも妖精誘導法の到達者だったんだ」
リュカはさらに読み進める。
そこには、ニコラスの生い立ちが記されていた。
――人でありながら、生まれつき精霊眼を持つ者。
――その才能によって、妖精誘導法へ到達した。
リュカは静かに呟く。
「僕とは違う」
「僕は妖精眼鏡で精霊眼が目覚めた」
「でも」
「妖精誘導法へ辿り着いたのは同じなんだ」
さらにページをめくる。
そこには、ニコラスが魔王となった理由が記されていた。
――いずれ訪れる死を恐れた。
――永遠の命を求めた。
リュカは黙って文献を見つめる。
フィオナも静かに読み進めた。
だが。
その先に記されていた内容を見て、二人の表情が変わる。
「……違う」
リュカが小さく呟く。
「どうしたの?」
フィオナが尋ねる。
リュカは文献を指差した。
「ニコラスは」
「僕と同じ道を歩まなかった」
そこに記されていたのは。
妖精と心を通わせ、共に歩む妖精誘導法ではなかった。
魔粒子を支配し。
己の意思でねじ伏せ。
強制的に融合させる。
生命の理を踏みにじる禁忌の闇魔法。
「魔粒子を……支配する?」
フィオナも息を呑む。
さらにページをめくる。
そこには、禁忌の果てに生み出された存在が記されていた。
――魔核融合体。
人工魔核。
周囲の魔粒子を無限に吸収し。
永久に魔素を生み出し続ける存在。
それこそが。
ニコラスが千年という時を生き続けた理由だった。
リュカは静かに本を閉じる。
「違う」
「僕とは、何もかも違う」
「ニコラスは、自分が生き続けるために永遠を求めた」
「でも僕は」
「フィオナと同じ時を生きたいだけなんだ」
永遠が欲しいわけじゃない。
力が欲しいわけでもない。
ただ。
愛する人と共に、同じ時間を歩みたい。
その願いのために、人としての心まで捨てるつもりはなかった。
フィオナは優しく微笑む。
「うん」
「それがリュカだもん」
「妖精たちも」
「きっと、そんなリュカだから力を貸してくれたんだよ」
リュカは少しだけ笑った。
「ありがとう」
もう一度、文献を開く。
魔核融合体。
その構造。
生成方法。
代償。
二人は食い入るように読み進めた。
しかし。
最後のページには、こう記されていた。
――以後、魔核融合体に関する記録は失われた。
――その真実を知る者は、もはや存在しない。
リュカは静かに文献を閉じる。
「ここまでか……」
せっかく見つけた手掛かり。
だが、肝心な部分は失われていた。
部屋を沈黙が包む。
同じ妖精誘導法へ辿り着きながら。
ニコラスとリュカが選んだ道は、あまりにも対照的だった。




