第92話 エルフもまた
アルディオンは静かに言葉を続けた。
「だが」
「勘違いしてはいけない」
「我らエルフも、不死ではない」
リュカは顔を上げる。
「……え?」
「人間と比べれば」
「遥かに長寿だ」
「病に侵されることも少なく」
「老いも緩やかで」
「幸福で、恵まれた境涯にあると言っていい」
一度、世界樹へ視線を向ける。
「しかし」
「我らも例外なく死を迎える」
フィオナは静かに耳を傾けていた。
アルディオンは穏やかな口調で語る。
「死が近づいたエルフには、五つの衰えが現れる」
「一つ」
「身体の清浄さが失われる」
「二つ」
「その身から自然と放たれていた香りが消える」
「三つ」
「どれほど清めても、衣は汚れるようになる」
「四つ」
「周囲に咲いていた草花が枯れ始める」
「そして五つ」
「それまで授かっていた精霊としての福徳が失われる」
部屋は静まり返っていた。
「それが」
「我らに訪れる終わりの兆しだ」
アルディオンはゆっくりと息を吐く。
「ゆえに」
「我らも永遠を生きる存在ではない」
「限りある命だからこそ」
「その長い時を、何に費やすのかを考えながら生きている」
そして、リュカを真っ直ぐ見つめた。
「そうであるにもかかわらず」
「人間に構っている余裕は、本来の我らにはないのだよ」
「人の子の一生は、あまりにも短い」
「その別れを何度も繰り返していては」
「我らは前へ進めなくなる」
その言葉に、悪意はなかった。
人間を見下しているわけでもない。
ただ。
悠久の時を生きる精霊としての価値観を、静かに語っているだけだった。
リュカは拳を握り締める。
初めて知った。
エルフは永遠の命を持つ種族ではないことを。
そして。
永遠というものは、この世界のどこにも存在しないことを。




