第75話 守る理由
ある日。
二人は森で魔物討伐の依頼を受けていた。
相手は大型の魔獣。
並の冒険者なら苦戦する相手だったが、リュカとフィオナにとっては決して倒せない相手ではない。
「左お願い!」
「うん!」
妖精魔法と精霊魔法。
二人の連携は見事で、戦いは優勢に進んでいた。
その時だった。
倒れたはずの魔物が最後の力を振り絞り、フィオナへ襲いかかる。
本来なら。
フィオナなら十分に避けられた。
それでも。
「フィオナ!」
考えるより先に、リュカの身体が動いた。
妖精魔法を発動し、一瞬でフィオナの前へ飛び出す。
直後。
魔物の鋭い爪がリュカを切り裂いた。
「リュカ!」
フィオナは反射的に精霊魔法を放つ。
風の刃が魔物を貫き、戦いは終わった。
静寂が森を包む。
リュカは傷口を押さえながら苦笑した。
「大丈夫」
「かすり傷だから」
「大丈夫じゃない!」
フィオナは駆け寄り、震える手で傷を治療する。
傷は深くはない。
命に別状もない。
それでも。
手の震えだけは止まらなかった。
「どうして庇ったの!?」
思わず声を荒げる。
リュカは少し困ったように笑う。
「君が危ないと思ったから」
「私なら平気だった!」
「うん」
リュカは静かに頷く。
「分かってる」
「フィオナが強いことくらい」
「じゃあどうして!」
リュカは少しだけ考え、照れくさそうに笑った。
「……身体が勝手に動いたんだ」
「え?」
「気付いたら、君の前に立ってた」
「理由なんて、僕にも分からない」
フィオナは何も言えなかった。
怒っている。
でも。
本当に怒っているわけじゃない。
怖かった。
ただ、それだけだった。
目の前から。
大切な人がいなくなるかもしれない。
その想像だけで、胸が締めつけられた。
フィオナは震える手で、リュカの服をぎゅっと掴んだ。
もう二度と。
こんな思いはしたくない。
そう強く願いながら。




