第72話 未来
夜。
暖炉の火が静かに揺れている。
夕食を終えた二人は、温かいお茶を飲みながら他愛もない話をしていた。
「ねえ、リュカ」
「何?」
「エルフと人間って、子どもできるのかな?」
突然の質問に、リュカは少し驚いた。
「どうだろう」
「僕も聞いたことないな」
「そっか」
フィオナは暖炉の火を見つめながら、小さく頷く。
「でも」
リュカは優しく微笑んだ。
「できなくてもいいよ」
「え?」
「僕は、フィオナと一緒にいられれば、それだけで幸せだから」
一瞬。
フィオナの思考が止まる。
そして。
みるみるうちに頬が赤く染まっていく。
「もう……」
「何?」
「そういう恥ずかしいこと、さらっと言わないでよ」
照れ隠しにリュカの肩を軽く叩く。
リュカは困ったように笑った。
「本当のことだから」
「もう!」
フィオナは顔を背ける。
でも。
その口元は、嬉しそうに緩んでいた。
その夜。
先に眠ったリュカを見届けたあと。
フィオナは一人、暖炉の前へ座っていた。
炎を見つめながら。
さっきの言葉を思い返す。
「僕は、フィオナと一緒にいられれば、それだけで幸せだから」
自然と。
未来を想像してしまう。
白いドレス。
結婚式。
笑い合う二人。
同じ家で暮らす毎日。
食卓を囲み。
畑を耕し。
子どもがいたら、きっと賑やかなんだろう。
そんな穏やかな未来。
思わず笑みがこぼれる。
でも。
その幸せな景色は、ゆっくりと色を失っていく。
子どもは大人になり。
家を出て。
リュカの髪には白いものが混じり。
やがて老いていく。
そして。
最後には。
自分だけが残される。
「……っ」
胸が苦しい。
嫌。
そんな未来。
嫌だ。
「いや……」
小さく首を振る。
「いやだよ……」
ぽたり。
涙が暖炉の前へ落ちた。
幸せな未来を想像するほど。
その先にある別れが、鮮明になってしまう。
フィオナは両手で顔を覆いながら、人知れず静かに涙を流し続けた。




