第69話 初めてのお弁当
ある日の朝。
リュカがいつものように朝食の準備を始めようとすると、フィオナが両手を広げて立ちはだかった。
「今日はダメ!」
「え?」
「今日は、私が作ったげる!」
胸を張って宣言するフィオナ。
リュカは思わず笑ってしまう。
「急にどうしたの?」
「だって」
フィオナは少し照れながら答えた。
「いつもリュカが作ってくれてるじゃん」
「人間は、女の人が家事とか炊事をするんでしょ?」
「私も人間のこと、ちゃんと勉強したんだから」
リュカは苦笑する。
「そんな決まりはないよ」
「できる方がやればいいんだ」
「えっ、そうなの?」
少し驚いたように目を丸くする。
「でも!」
「今日は私が作りたいの!」
その真っ直ぐな笑顔に、リュカは小さく頷いた。
「分かった」
「じゃあ、楽しみにしてる」
「任せて!」
フィオナは腕まくりをして台所へ向かった。
すると。
どこからともなく妖精たちが集まってくる。
「手伝うー!」
「料理だー!」
「私もやる!」
「ありがとう!」
フィオナは嬉しそうに笑う。
賑やかな料理が始まった。
「それ、お塩じゃなくて砂糖!」
「あっ!」
「火が強い、強い!」
「わー!」
じゅうううっ。
「ああっ!」
鍋から香ばしい匂いが立ち上る。
「……焦げた」
フィオナは肩を落とした。
「大丈夫!」
「まだ食べられる!」
妖精たちはどこまでも前向きだった。
何とかお弁当を完成させ、二人は依頼へ向かう。
昼。
木陰へ腰を下ろし、お弁当を広げる。
「どうかな……」
フィオナは不安そうにリュカを見つめた。
リュカは一口食べる。
少し焦げている。
味も少しだけ濃い。
でも。
「美味しい」
「……本当に?」
「うん」
リュカは笑顔で頷いた。
「フィオナが僕のために作ってくれたんだもん」
「美味しいに決まってる」
そう言って、嬉しそうに食べ始める。
「全部食べるの?」
「もちろん」
「残したらもったいないよ」
あっという間に、お弁当は空になった。
フィオナは思わず笑みを浮かべる。
「えへへ」
「今度はもっと美味しく作るね」
「楽しみにしてる」
妖精たちも嬉しそうに飛び回る。
「次は焦がさない!」
「もっと美味しくする!」
「頑張る!」
笑い声が森へ響く。
少し焦げたお弁当。
それでもリュカにとっては、今まで食べたどんな料理よりも温かく、幸せな味がした。




