第61話 夜空
数日後。
リュカの熱はすっかり下がっていた。
「もう大丈夫?」
「うん。心配かけてごめんね」
「本当に?」
「本当だよ」
そう言って笑うリュカを見て、フィオナはようやく安心したように微笑んだ。
その日の夜。
二人は家の前へ椅子を並べ、静かな夜空を見上げていた。
満天の星。
虫たちの歌声。
森を渡る心地よい風。
「綺麗だね」
「うん」
しばらく無言で星を眺める。
やがてフィオナが、小さく口を開いた。
「ねえ、リュカ」
「何?」
「あの星ね」
夜空の一つを指差す。
「パパが言ってたの」
「一万年前も、あそこにあったんだって」
「へえ……」
リュカは感心したように夜空を見上げた。
「じゃあ、一万年後もあるのかな?」
「どうだろうね」
フィオナは穏やかに笑う。
「星のことは誰にも分からないよ」
「そっか」
リュカも笑った。
「まあ、流石に一万年後は、僕はいなくなってるけどね」
何気ない一言だった。
軽い冗談のつもりだった。
「……」
フィオナは何も言えなかった。
笑えなかった。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
そうなんだ。
リュカは人間。
人間は百年も生きない。
自分は、その何十倍、何百倍もの時を生きる。
頭では、ずっと知っていた。
それなのに。
風邪で苦しむリュカを見て。
こうして隣で笑うリュカを見て。
初めて、その現実が胸へ突き刺さった。
一万年後どころじゃない。
百年後には。
きっと。
リュカは、もう隣にいない。
「フィオナ?」
リュカが不思議そうに顔を覗き込む。
フィオナは慌てて微笑んだ。
「ううん」
「何でもない」
そう答えたけれど。
夜空を見上げるその横顔は、どこか少しだけ寂しそうだった。




