第59話 人間の時間
ある日の昼下がり。
村の広場は、多くの人で賑わっていた。
「何かあるの?」
フィオナが近くの村人へ尋ねる。
「今日は結婚式なんですよ」
幸せそうに笑う新郎新婦。
祝福する家族。
拍手と笑顔に包まれた、穏やかな時間だった。
「おめでとう!」
子どもたちの声が広場へ響く。
花びらが舞い、二人は夫婦として新たな人生を歩み始めた。
その帰り道。
フィオナは隣を歩くリュカへ尋ねた。
「ねえ、リュカ」
「何?」
「人間って、あれくらいの歳で結婚するの?」
「そうだね。十五歳や十六歳で結婚する人も珍しくないよ」
「へぇ……」
フィオナは少し考え込む。
「早いね」
「そうかな?」
「だって、エルフなんて結婚するの千歳くらいだよ?」
「えっ!?」
リュカは思わず立ち止まった。
「千歳!?」
「うん」
「普通だよ?」
「私から見たら、十五歳なんて赤ちゃんみたいなものだもん」
あまりにも自然に言われて、リュカは苦笑する。
「種族が違うと、そんなに感覚も違うんだね」
「うん」
フィオナは空を見上げた。
「エルフは人間と比べると長生きだし」
「病気にもほとんどならない」
「歳もゆっくりしか取らない」
「だからね」
「時間なんて、いくらでもあると思ってた」
「今日じゃなくてもいい」
「また今度でいい」
「来年でも」
「百年後でも」
「そんなふうに思って生きてきた」
少しだけ笑う。
「でも」
その表情は、どこか柔らかかった。
「リュカと暮らすようになって、分かったんだ」
「え?」
「人間って、本当に一生懸命だよね」
「短い人生だから」
「今日を大切にする」
「会いたい人に会って」
「ありがとうって言って」
「好きな人を大切にして」
「今、この瞬間を生きてる」
フィオナは少し照れくさそうに笑った。
「最初は不思議だった」
「どうしてそんなに急ぐんだろうって」
「でも違った」
「急いでるんじゃない」
「一日一日を、大切にしてるんだよね」
リュカは少し照れながら笑う。
「終わりがあるって分かってるからかな」
「うん」
フィオナは静かに頷いた。
「人間って、本当にすごい」
「私は、リュカと暮らすまで知らなかった」
その言葉に、リュカは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
「そんな大したものじゃないよ」
「ううん」
フィオナは優しく首を振る。
「私はね」
「そうやって懸命に生きる人間が、好き」
その言葉を口にした瞬間。
フィオナ自身も、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じていた。
尊敬は、いつしか。
恋へと、静かに姿を変え始めていた。




