第57話 雨の日
朝から雨だった。
屋根を叩く雨音が、静かな家の中へ心地よく響いている。
畑仕事は休み。
依頼も今日は受けない。
二人は珍しく、一日中家で過ごすことにした。
暖炉には火が灯り、部屋の中はぽかぽかと暖かい。
リュカは椅子へ腰掛け、本を読んでいる。
フィオナは温かいお茶を淹れながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
雨はまだ止みそうにない。
「暇だねー」
フィオナが大きく伸びをする。
「そうだね」
リュカは本から顔を上げ、苦笑した。
「退屈?」
「うーん……」
フィオナは少しだけ考え込む。
退屈なはずだった。
依頼にも行けない。
畑仕事もできない。
旅にも出られない。
数年前の自分なら、きっと森へ遊びに行っていただろう。
けれど今は、不思議とそんな気持ちにならない。
暖炉の火がぱちりと音を立てる。
湯気の立つお茶。
本を読むリュカ。
窓を打つ雨音。
ただ、それだけ。
「ねえ、リュカ」
「何?」
「私ね」
フィオナは穏やかに笑った。
「こういう日も好き」
「え?」
「何もしないで、のんびり過ごす日」
「なんで?」
その問いに、フィオナは少しだけ照れくさそうに笑う。
「リュカと一緒だから」
「……えっ?」
リュカは思わず固まる。
「一人だったら、多分つまらなかったと思う」
「でも今は違う」
「こうして一緒にお茶を飲んで、本を読んで、料理を作って……」
「それだけで楽しい」
リュカは照れたように頬をかいた。
「そ、そっか」
「うん」
フィオナは嬉しそうに笑う。
特別なことは何もない。
冒険もない。
魔物もいない。
ただ、一緒に同じ時間を過ごしているだけ。
それなのに。
その何気ない一日が、かけがえのないものになっていた。




