第56話 一人の夕食
ある日。
リュカは一泊二日の依頼を受け、朝早く家を出ることになった。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい」
フィオナはいつものように笑って手を振る。
「たまには一人も気楽だね」
「妖精たちもいるし」
「すぐ帰ってくるよ」
「うん」
リュカは笑顔で頷き、村を後にした。
静かな家。
午前中は畑の世話をして。
妖精たちと他愛もない話をして。
気付けば夕暮れになっていた。
「そろそろご飯にしようかな」
リュカが作り置きしてくれていた料理を温める。
食卓へ並べる。
いつも通り。
とても美味しそうだった。
「いただきます」
一口食べる。
「……美味しい」
味は変わらない。
いつものリュカの料理だ。
なのに。
「……なんか、味気ない」
食卓が静かだった。
いつも聞こえる、
「いただきます」
「美味しいね」
そんな何気ない会話がない。
向かいの席も空いている。
もう一口食べる。
やっぱり美味しい。
それなのに。
少しだけ寂しかった。
「……早く帰ってこないかな」
ぽつりと呟く。
その瞬間。
ふと、一週間ぶりに帰ってきた自分を見て、涙ぐみながら怒っていたリュカの顔が浮かんだ。
「……そっか」
「この前、リュカもこんな気持ちだったのかな」
胸が少しだけ締めつけられる。
一日だけでも、こんなに寂しい。
それなのに。
リュカは一週間もの間、一人で待ち続けていた。
「ごめんね」
誰もいない食卓で、小さく呟く。
フィオナは温かいスープを口へ運びながら、初めて知った。
一緒に食べる食事は。
一人で食べる食事よりも、ずっと美味しかったのだと。




