第55話 おかえり
数日ぶりに。
二人は向かい合って座っていた。
家の中は静かだった。
けれど。
以前のような重苦しい空気ではない。
お互いに。
ちゃんと話そうと思っていた。
先に口を開いたのは、フィオナだった。
「……ごめん」
リュカは顔を上げる。
フィオナは真っ直ぐ彼を見つめていた。
「本当に、ごめん」
「リュカの気持ち、全然分かってなかった」
「……」
「一週間なんて、私にとっては本当にあっという間だったから」
「だから、あんなに心配するなんて思わなかった」
少しだけ俯く。
「ごめんね」
リュカは静かに首を振った。
「僕も、ごめん」
「え?」
「すぐ怒っちゃった」
「フィオナからしたら、本当に短い時間なんだよね?」
「……うん」
フィオナは苦笑する。
「一応ね」
そして、じっとリュカの顔を見つめた。
「……なんか、失礼なこと考えてる?」
「いや、別に」
「今、千年とか数えてなかった?」
「数えてないよ」
「本当に?」
「……本当」
少しだけ沈黙が流れる。
フィオナはじーっとリュカを見つめた。
「怪しい」
「怪しくないって」
二人は思わず吹き出した。
張り詰めていた空気が、ようやく少しだけ和らぐ。
フィオナは改めて真剣な表情になった。
「これからは」
「うん」
「どこへ行くのか」
「いつ帰るのか」
「ちゃんと話してから出掛ける」
リュカも頷く。
「僕も、すぐ怒らないようにする」
「帰りが遅かったら?」
「心配する」
「怒る?」
「……少しだけ」
「じゃあ、なるべく早く帰る」
フィオナは優しく笑った。
そして、少し照れくさそうに続ける。
「でも、勘違いしないでね」
「え?」
「私は、リュカを置いていったりしない」
「……」
「絶対に、リュカを一人になんてしないから」
その言葉を聞いた瞬間。
リュカの胸を締めつけていた不安が、ゆっくりとほどけていった。
「……ありがとう」
その一言だけで十分だった。
二人は顔を見合わせて笑う。
その日の夕方。
二人は村での用事を終え、並んで家へ帰ってきた。
フィオナが玄関の扉を開ける。
「ただいま」
リュカは自然に微笑んだ。
「おかえり」
たった二つの言葉。
けれど。
フィオナは、その温かさに胸が熱くなる。
帰りを待ってくれる人がいる。
誰かに「ただいま」と言える。
それは。
数千年という長い時を生きてきた彼女でさえ、一度も知らなかった幸せだった。
そしてリュカもまた思う。
帰ってきてくれる人がいる。
「おかえり」と言える人がいる。
それは。
帰る場所を失った自分が、ずっと欲しかった宝物だった。




