第54話 帰りを待つ人
喧嘩をしてから、数日が過ぎた。
リュカはいつも通り村人の手伝いへ出掛ける。
フィオナも家にいるのが落ち着かず、一人で村を歩いていた。
「あら、フィオナさん」
畑仕事をしていたおばあさんが声を掛けてくる。
「こんにちは」
フィオナは笑顔を作って答えた。
「あんた、最近全然見なかったねぇ」
「ちょっと森の奥まで行ってたの」
「ああ、そうだったの」
おばあさんは安心したように頷く。
そして、ふと首を傾げた。
「でも、何かあったのかい?」
「え?」
「リュカさんと喧嘩でもした?」
フィオナは少し驚く。
「そういうわけじゃないですけど……」
「ふふっ」
おばあさんは優しく笑った。
「若いわねぇ」
「え?」
「リュカさん、あんたのこと本当に心配してたよ」
「……」
「一週間も帰ってこなかったんでしょう?」
フィオナは小さく頷く。
「あんたみたいな綺麗な子が、一週間も姿を消したらねぇ」
「そりゃ誰だって、気が気じゃなくなるわよ」
その言葉に、フィオナは何も返せなかった。
その後。
森へ入ると、妖精たちが飛んできた。
「フィオナー!」
「仲直りした?」
「まだ?」
フィオナは困ったように笑う。
「まだ」
すると、火の妖精が腕を組んだ。
「リュカ、ありゃ相当怒ってるぜ」
「うんうん」
「毎日探してたもん」
「ずーっと心配してた」
「夜も元気なかったし」
妖精たちは口々に話し始める。
「そんなに……?」
フィオナは少し驚いた。
「うん」
「フィオナが帰ってこないって」
「また一人になるんじゃないかって」
「すっごく不安そうだった」
フィオナは静かに俯く。
人間にとって。
一週間は、そんなにも長い時間だったのか。
エルフである自分には、本当に分からなかった。
数千年を生きる自分にとって、一週間などほんの一瞬。
少し遠くまで散歩をした。
その程度の感覚だった。
でも。
リュカにとっては違った。
毎日帰りを待ち。
毎日心配し。
無事を願いながら過ごした七日間だった。
「……そうか」
フィオナは小さく呟く。
今まで。
自分の帰りを待ってくれる人なんて、一人もいなかった。
好きな場所へ行き。
好きな時に帰る。
それが当たり前だった。
だから知らなかった。
誰かが、自分の帰りを待っていてくれること。
誰かが、自分のことを心配してくれること。
それが、どれほど温かくて。
どれほど幸せなことなのかを。
フィオナは静かに空を見上げる。
「……帰ろう」
その言葉は。
数千年生きてきた彼女が、初めて心から口にした「帰りたい」という言葉だった。




