第52話 エルフの時間、人間の時間
「少し森の向こうまで行ってきたの」
フィオナは悪びれる様子もなく答えた。
「どこに何があるか、知っておいた方が便利でしょ?」
リュカは呆然と彼女を見る。
「それで……一週間?」
「うん」
「一週間も!?」
「一週間くらいで?」
フィオナは不思議そうに首を傾げる。
「たった一週間じゃん」
「たったじゃないよ!」
リュカは思わず声を荒げた。
「一週間だよ!?」
「だから?」
「だからじゃない!」
フィオナは本気で分からないという顔をしていた。
「そんなに心配するものなの?」
「当たり前だよ!」
「なんで?」
「なんでって……!」
言葉が詰まる。
リュカにとって、一週間は決して短い時間ではない。
朝が七回。
夜も七回来る。
一人で食事をして。
一人で眠って。
毎日森を探し回って。
帰ってくることだけを願いながら過ごした七日間。
それを。
フィオナは。
「たった一週間」
そう言った。
「意味分かんない!」
リュカが叫ぶ。
「意味分かんないじゃない!」
フィオナも負けじと言い返した。
「リュカは、せっかちすぎるよ!」
「せっかちじゃない!」
「私は、ちゃんと帰ってきたよ?」
「そういう問題じゃない!」
二人の言葉は、何度交わしても噛み合わない。
数千年を生きるエルフであるフィオナにとって。
一週間は、本当に「あっという間」の時間だった。
少し森を歩き。
景色を眺め。
気になった場所を見て回っていたら、それくらい経ってしまう。
そんな感覚だった。
しかし。
人間であるリュカにとって、一週間は長い。
何かあったのではないかと心配し続けるには、あまりにも長すぎる時間だった。
互いに悪気はない。
だからこそ。
どちらも、自分が悪いとは思えない。
エルフの時間。
人間の時間。
あまりにも違いすぎる二人の価値観は、この日初めて、大きくぶつかり合った。




