第50話 まだ帰ってこない
一日が過ぎた。
それでも。
フィオナは帰ってこなかった。
「……遅いな」
リュカは家の前に立ち、森へ続く道を見つめる。
昨日は「少し森を見てくる」と言って出掛けただけだった。
だから。
夕方には帰ってくるものだと思っていた。
そのまま一晩帰らなくても。
何か用事があったのだろう。
そう考えていた。
しかし。
二日目になっても。
三日目になっても。
四日目になっても。
フィオナは帰ってこなかった。
リュカは居ても立ってもいられなくなる。
「フィオナ!」
森へ入り、何度も名前を呼ぶ。
薬草を採りに行った場所。
一緒に昼寝をした大木の下。
湖のほとり。
小川沿いの道。
思い当たる場所を、一つ残らず探し回った。
それでも。
姿は見つからない。
途中で妖精たちを見つける。
「ねえ!」
リュカは駆け寄った。
「フィオナを見なかった?」
妖精たちは不思議そうに首を傾げる。
「知らなーい」
「そのうち帰ってくるんじゃない?」
「フィオナだもん」
あまりにも気楽な返事だった。
妖精たちは誰一人として心配していない。
その様子を見て。
リュカも「大丈夫なのかな」と思おうとした。
けれど。
胸の奥にある不安だけは、消えてくれなかった。
家へ帰る。
玄関を開ける。
「ただいま」
返事はない。
静かな家。
暖炉の火を点ける。
夕食を作る。
二人分作る癖は、まだ抜けない。
出来上がってから。
ようやく気づく。
「……一人だった」
向かいの席は空いたまま。
一人で食べる夕食は、やっぱり味気なかった。
夜になっても。
朝になっても。
扉が開くことはない。
そして。
心の奥へ押し込めていた記憶が、ゆっくりと蘇り始める。
勇者パーティから追放された日。
『お前は、もう要らない』
あの言葉。
あの視線。
あの日感じた絶望。
「……違う」
リュカは首を振る。
フィオナは違う。
あの人たちとは違う。
そう分かっている。
それでも。
胸の奥から、どうしても消えない声が聞こえてくる。
――嫌われたのかな。
――愛想を尽かされたのかな。
――やっぱり僕は、無能だから。
――また、一人になったのかな。
「違う……」
リュカは自分へ言い聞かせる。
「フィオナは、そんな人じゃない」
何度も。
何度も。
そう言い聞かせる。
けれど。
一度心へ刻まれた「捨てられる恐怖」は、簡単には消えてくれなかった。
夕暮れの森を見つめる。
今日も。
帰ってくるはずの人の姿は、どこにもなかった。




