第49話 少し森へ行ってくるね
ある朝。
朝食を食べ終えた頃。
フィオナはいつものように立ち上がると、軽く伸びをした。
「ねえ、リュカ」
「何?」
「少し森を見てくるね」
あまりにも自然な口調だった。
近所を散歩するような軽い言い方。
リュカも特に気にすることなく頷く。
「うん。いってらっしゃい」
「いってきます」
フィオナは笑顔で手を振り、そのまま森の中へ歩いていった。
リュカは玄関先で見送る。
やがて、その姿は木々の向こうへ消えていった。
「さてと」
リュカは家へ戻る。
今日は一人だ。
朝食の後片付けをして。
家の掃除を済ませる。
庭へ出て、畑へ水をやる。
まだ芽を出していない野菜の種。
薬草の苗。
「早く大きくなるといいな」
そんなことを呟きながら、土を眺める。
薪を割り。
井戸から水を汲み。
昼食を簡単に済ませる。
一人でも、やることはいくらでもあった。
だから。
昼までは何も気にならなかった。
けれど。
夕暮れが近づく頃。
リュカは何度も家の外へ出るようになっていた。
森へ続く一本道を見る。
「……そろそろかな」
帰ってくる気配はない。
風が木々を揺らしているだけだった。
「少し遅いな」
そう呟きながら家へ戻る。
夕食の準備を始める。
鍋を火に掛ける。
食器を二人分並べる。
料理が出来る頃には帰ってくるだろう。
そう思っていた。
しかし。
日が沈んでも。
玄関の扉が開くことはなかった。
暖炉の火だけが、静かに揺れている。
料理は出来上がっている。
けれど、リュカはなかなか食べる気になれなかった。
「……まだかな」
窓の外を見る。
夜の森は静かだった。
いつもなら賑やかに飛び回っている妖精たちの姿も、今日はほとんど見えない。
リュカは椅子へ腰を下ろした。
向かいの席は空いている。
いつもなら。
「お腹空いた!」
そう言いながらフィオナが席へ着く。
料理を見て笑って。
妖精たちと騒ぎながら夕食を囲む。
そんな時間が、もう当たり前になっていた。
だからだろう。
一人で向かう食卓は、驚くほど静かだった。
スープを一口飲む。
美味しいはずなのに。
どこか物足りない。
温かいはずなのに。
少しだけ、冷たく感じた。
リュカは小さく笑う。
「……一人って、寂しいな」
誰に聞かせるでもない呟きは、静かな家の中へ消えていった。
それでも、この時のリュカはまだ思っていた。
きっと明日には帰ってくる。
フィオナなら大丈夫。
そう信じていた。




