第48話 僕たちの家
夜。
窓の外では、虫たちの鳴き声が静かに響いていた。
暖炉では薪が、ぱちぱちと優しい音を立てて燃えている。
家の中には、夕食の温かな香りが漂っていた。
「できたよ」
リュカが料理を机へ並べる。
「やった!」
フィオナは嬉しそうに席へ着いた。
「今日は何?」
「村で分けてもらった野菜を使ったシチューだよ」
「美味しそう!」
「いただきます」
「いただきます!」
二人は向かい合って食事を始めた。
今日あった出来事を話す。
村の子どもたちのこと。
妖精たちのこと。
畑へ植えた種が芽を出したら、何を育てようか。
そんな他愛もない会話が続く。
食事を終えると、二人は暖炉の前へ移動した。
炎を眺めながら、ゆっくりと流れる時間を楽しむ。
静かだった。
けれど、その静けさが心地よかった。
リュカは揺れる炎を見つめながら思う。
勇者パーティにいた頃。
帰る場所なんてなかった。
依頼が終われば宿へ泊まり。
翌日になれば、また別の街へ向かう。
そこには、自分の家はない。
待っていてくれる人もいない。
「ただいま」と言える場所など、一つもなかった。
だから。
この家へ帰ってきて。
暖かな食卓を囲み。
何気ない話をしながら笑っている今が。
夢のように幸せだった。
一方で。
フィオナも静かに暖炉を見つめていた。
一人旅は自由だった。
好きな場所へ行き。
好きな景色を見て。
好きな時に眠る。
誰にも縛られない旅。
それは、それで楽しかった。
けれど。
今は違う。
旅へ出ても。
依頼へ出ても。
帰る場所がある。
帰れば。
笑って迎えてくれる人がいる。
その幸せを知ってしまった今では。
もう、一人旅には戻れない気がした。
「ねえ、リュカ」
「何?」
「明日も依頼に行こうか」
「うん」
「じゃあ」
フィオナは微笑む。
「帰ってきたら、美味しいもの食べようね」
リュカも笑った。
「もちろん」
たった、それだけの約束。
それだけなのに。
二人の心は、どこか温かくなった。
旅へ出ても。
また帰ってくる。
そして。
「おかえり」
「ただいま」
その二つの言葉を交わせる場所がある。
それは。
誰かにとっては、ごく当たり前の日常なのかもしれない。
けれど。
帰る場所を失った青年と。
一人で生きることが当たり前だったエルフの少女にとって。
その当たり前は、決して当たり前ではなかった。
二人で選んだ家。
二人で囲む食卓。
二人で笑い合う毎日。
何気なく交わす、「おかえり」と「ただいま」。
そのすべてが。
今の二人にとって。
何よりも大切な宝物になっていた。




