第46話 ただいま
新しい家で暮らし始めて数日。
庭には耕したばかりの畑が広がっていた。
薬草の種。
野菜の種。
小さな果樹の苗。
まだ芽も出ていない。
それでも、二人にとっては大切な畑だった。
その日。
リュカとフィオナは、久しぶりに冒険者として依頼を受けていた。
近隣の森で暴れている魔物の討伐。
決して難しい依頼ではない。
けれど、家を持ってから初めて受ける依頼だった。
「お疲れさま」
帰り道。
フィオナが笑う。
「フィオナも、お疲れさま」
夕日に照らされた道を、二人は並んで歩く。
急ぐ必要はなかった。
依頼は無事に終わった。
あとは帰るだけ。
それだけだった。
やがて。
森を抜けると、小さな家が見えてきた。
夕日に染まる木の屋根。
家の前には、二人で耕したばかりの畑。
まだ何も育ってはいない。
けれど、そこには確かに未来が植えられていた。
「着いたね」
フィオナが嬉しそうに微笑む。
玄関の前まで歩くと、彼女はくるりと振り返った。
そして、当たり前のように笑う。
「おかえり」
一瞬。
リュカは言葉を失った。
勇者パーティにいた頃。
依頼を終えて帰っても、迎えてくれる人はいなかった。
労ってくれる人も。
帰りを待ってくれる人も。
いなかった。
だから。
その一言が、胸の奥へ静かに染み込んでいく。
リュカは少し照れくさそうに笑った。
「……ただいま」
その言葉を口にした瞬間。
ようやく実感した。
帰る場所がある。
待っていてくれる人がいる。
依頼を終えれば帰る家がある。
何気ない「おかえり」と「ただいま」を交わせる毎日がある。
それは。
帰る場所を失ったリュカが、ずっと知らなかった幸せだった。
「どうしたの?」
フィオナが不思議そうに首を傾げる。
「ううん」
リュカは家を見つめながら、小さく笑う。
「帰る場所があるって……こんなに嬉しいんだね」
フィオナも優しく微笑んだ。
「うん」
「私もそう思う」
二人は並んで扉を開ける。
今日もまた。
二人の家へ帰ってきた。




