第45話 僕たちの畑
新しい家での暮らしが始まって数日。
リュカとフィオナは、まず家の周りを整えることにした。
「せっかくだし、畑を作ろうか」
リュカが庭を見回しながら言う。
「いいね!」
フィオナも笑顔で頷いた。
「薬草も育てたいし」
「野菜も欲しい!」
「果物もあると嬉しいね」
「甘いもの!」
「結局そこなんだ」
「あったり前でしょ」
二人は笑い合いながら作業を始める。
すると。
「呼んだ?」
黄色い光がふわりと集まり、土の妖精ノームが姿を現した。
「畑を耕したいんだけど」
リュカがお願いすると、ノームは眠そうに欠伸をした。
「うーん……」
「お願い」
「眠い」
「そこを何とか」
「……仕方ないなぁ」
ノームが小さく手を振る。
すると、大地がゆっくりとうねり始めた。
固かった土はふかふかに耕され、小石が地中へ沈んでいく。
「ありがとう!」
「終わったら起こさないでね」
「もう寝るの!?」
ノームはその場で丸くなり、本当に眠ってしまった。
フィオナが吹き出す。
「あははは!」
続いて。
「ウンディーネ」
「なあにー?」
水の妖精が楽しそうに飛んでくる。
「種を植えたから、お水をお願いできる?」
「もちろん!」
青い魔粒子が集まり、優しい雨のように畑へ水が降り注ぐ。
「ありがとう!」
「また呼んでねー!」
さらに。
「シルフ」
「呼んだ?」
風の妖精が勢いよく飛び回る。
「花が咲いたら受粉をお願いしたいんだけど」
「いいよ!」
「悪戯はなしね」
「えー」
「えーじゃない」
「あはは、分かった!」
軽やかな風が花々を優しく揺らしていく。
最後は。
「サラマンダー」
「今日は何?」
「昼ご飯作るから火を貸して」
「任せて!」
赤い魔粒子が集まり、薪へ小さな炎が灯る。
「料理なら張り切っちゃう!」
「助かるよ」
「美味しく作ってね!」
「もちろん」
妖精たちも笑う。
リュカとフィオナも笑う。
庭には薬草畑。
野菜畑。
そして、小さな果樹園。
少しずつではあるけれど、この家は二人の色に染まり始めていた。
「なんだか……」
リュカが畑を眺めながら呟く。
「家族みたいだね」
「うん」
フィオナも優しく微笑んだ。
「妖精たちもいるしね」
その日の午後。
近所に住む村人たちが挨拶にやって来た。
「こんにちは」
「今日から住むことになりました」
リュカが頭を下げる。
村人たちは気さくに笑った。
「若い二人が来てくれて嬉しいよ」
「困ったことがあったら何でも言ってくれ」
その中の一人が、フィオナを見て目を丸くする。
「それにしても……」
「エルフと人間の夫婦なんて、珍しいもんだなぁ」
「…………」
リュカの動きが止まる。
「えっ、いや、その……」
顔がみるみる赤くなっていく。
「ぼ、僕たちは、その……夫婦ってわけじゃ……」
慌てて手を振るリュカ。
一方のフィオナは平然とした表情を浮かべていた。
「そうなんです」
そう答えようとして。
「…………」
長い耳だけが、ほんのり赤く染まっていた。
村人たちは顔を見合わせて笑う。
「若いっていいねぇ」
「仲良く暮らしなさいよ」
そう言って、帰り際に手土産を置いていく。
焼きたてのパン。
採れたばかりの野菜。
手作りの果物のジャム。
「ありがとうございます!」
二人は深く頭を下げた。
村人たちが帰った後。
静かな庭に、少しだけ気まずい沈黙が流れる。
「……」
「……」
先に口を開いたのはリュカだった。
「その……夫婦って間違われちゃったね」
「そうだね」
フィオナは微笑む。
「でも」
家を見渡しながら、小さく呟いた。
「ここを選んで、本当によかった」
リュカも頷く。
「うん」
温かな家がある。
帰ってくる場所がある。
迎えてくれる人がいる。
そして、笑い合える毎日がある。
二人の新しい暮らしは、ゆっくりと動き始めていた。




