第43話 僕たちの家を探そう
翌日から。
リュカとフィオナの旅には、新しい目的が加わった。
二人で帰る家を見つけること。
それだけだった。
けれど、その目的は、二人の足取りを少しだけ軽くした。
「まずはどこへ行こうか」
リュカが地図を広げる。
フィオナは腕を組み、真剣な顔で地図を覗き込んだ。
「景色が綺麗なところ!」
「うん」
「美味しいものがあるところ!」
「それも大事だね」
「あと温泉!」
「また?」
「また!」
リュカは思わず笑う。
「温泉好きだね」
「好き!」
「即答だ」
「あったり前じゃん」
こうして。
二人だけの家探しが始まった。
最初に訪れたのは、湖のほとりにある小さな村だった。
湖面は朝日に照らされ、美しく輝いている。
水鳥たちが穏やかに泳ぎ、吹き抜ける風も心地よい。
「綺麗……」
フィオナが目を細める。
「ここもいいね」
「静かで落ち着くね」
二人はしばらく湖を眺めていた。
けれど。
夕方になると、湖から冷たい風が吹き始める。
「寒い……」
フィオナが肩を震わせた。
「思ったより冷えるね」
「冬はもっと寒そう」
「そうだね」
二人は顔を見合わせる。
「ここは見送りかな」
「うん」
次に訪れたのは、深い森に囲まれた集落だった。
木漏れ日が美しく、薬草も豊富に育っている。
妖精たちも楽しそうに飛び回っていた。
「薬草を育てるなら最高かも」
リュカが嬉しそうに辺りを見回す。
「リュカにはぴったりだね」
フィオナも頷く。
けれど。
村から一歩外へ出れば、そこは深い森だった。
「買い物が大変そう」
「街まで半日かかるみたい」
「うーん……」
魅力はある。
それでも。
暮らすことを考えると、少し不便だった。
「もう少し便利な場所がいいかな」
「そうだね」
二人は再び旅を続けた。
山あいの村。
海辺の街。
大きな港町。
自然豊かな農村。
様々な土地を歩いた。
景色が気に入れば交通が不便で。
便利な街だと思えば人が多すぎる。
なかなか理想の場所は見つからない。
「家探しって難しいね」
リュカが苦笑する。
「旅とは全然違うね」
フィオナも笑った。
「旅なら、一日だけでも楽しかったら十分だけど」
「家は毎日帰る場所だもんね」
「うん」
二人とも自然と真剣になっていた。
そんなある日。
二人は地方の小さな街で昼食を取ることにした。
名物料理を注文すると、香ばしい匂いが辺りへ広がる。
「いただきます!」
一口食べたフィオナの目が、ぱっと輝いた。
「美味しい!」
「そんなに?」
「すっごく美味しい!」
夢中で食べ始めるフィオナを見て、リュカは思わず笑う。
「景色はどう?」
「綺麗!」
「住みやすそう?」
「住みやすそう!」
「人は?」
「優しい!」
「じゃあ、一番気に入った理由は?」
フィオナは満面の笑みで答えた。
「ご飯!」
「やっぱりそこなんだ」
「毎日食べるんだから大事でしょ?」
「それは否定できないな」
「でしょ!」
得意げに笑うフィオナにつられて、リュカも笑った。
理想の家は、まだ見つからない。
けれど。
同じ景色を見て。
同じ料理を食べて。
どんな家がいいのか語り合いながら歩く時間は、不思議なくらい楽しかった。
家を探す旅。
そのはずなのに。
二人は、旅そのものを心から楽しんでいた。
まるで。
新婚旅行のように。




