第42話 帰る場所が欲しい
旅を続けて、しばらく経った頃。
リュカとフィオナは、その日も森の中で野営をしていた。
焚き火の上では鍋が静かに湯気を立て、心地よい香りが辺りへ広がっている。
依頼を終え。
美味しいものを食べ。
温泉へ入り。
祭りではしゃぎ。
時には喧嘩をして。
仲直りをして。
困っている人を助けながら、二人は各地を旅してきた。
そんな日々を重ねるうちに、冒険者としての実力も少しずつ認められるようになり、懐にも以前とは比べものにならないほど余裕が生まれていた。
夕食を食べ終えた頃。
フィオナが焚き火を見つめながら、ぽつりと口を開いた。
「ねえ、リュカ」
「何?」
「私たち、結構お金貯まったよね?」
リュカは小さく頷く。
「うん。無駄遣いもしてないしね」
「そっか」
フィオナはしばらく黙ったまま、揺れる炎を見つめていた。
何か考え事をしているようだった。
「どうしたの?」
リュカが尋ねると、フィオナは少しだけ照れくさそうに笑う。
「そろそろ、帰る場所が欲しくない?」
「……え?」
リュカは思わず目を丸くした。
その言葉は、あまりにも意外だった。
目的地を決めず、気の向くまま世界を旅する。
それがフィオナの旅だった。
知らない景色を見て。
知らない料理を食べて。
面白そうなことがあれば立ち寄る。
そんな自由な旅を、誰よりも楽しんでいたのは彼女だった。
だからこそ。
フィオナの口から「帰る場所」という言葉が出てくるとは思ってもいなかった。
「フィオナから、そんなことを言うと思わなかった」
「私も」
フィオナは苦笑する。
「昔はね、一人で旅をしてるだけで十分だったの」
「うん」
「どこへ行くのも自由だったし、帰る場所なんてなくても困らなかった」
焚き火が、ぱちりと音を立てる。
フィオナは炎を見つめたまま続けた。
「でもね」
「うん」
「今は旅が終わったら、『帰ろう』って思える場所があったらいいなって思うようになったの」
その言葉を聞いて。
リュカは胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。
帰る場所。
その言葉は、リュカにとって特別だった。
勇者パーティを追放されたあの日。
自分にはもう、帰る場所などないのだと思った。
旅を始めてからも。
宿に泊まり。
野宿をして。
また次の街へ向かう。
そんな毎日が当たり前になっていた。
けれど。
もし、帰る場所があるのなら。
そこには、フィオナがいる。
そう思っただけで、不思議と心が温かくなった。
「……家、探してみようか」
フィオナの表情が、一気に明るくなる。
「本当?」
「うん」
「やった!」
嬉しそうに立ち上がるフィオナを見て、リュカも思わず笑った。
「そんなに嬉しい?」
「うん!」
フィオナは何度も頷く。
「旅は今でも大好き」
「うん」
「でも」
少しだけ照れたように笑う。
「帰る場所がある旅なら、もっと楽しい気がするの」
リュカは静かに頷いた。
「僕も、そう思う」
二人は顔を見合わせて笑う。
その夜。
二人の旅に、新しい目的が生まれた。
世界を巡る旅ではない。
いつでも帰ってこられる場所を探す旅。
リュカにとって初めての。
そしてフィオナにとっても初めての。
「僕たちの家」を探す旅が、静かに始ま




