第39話 このクソアマ、調子に乗りやがって
リュカとフィオナは、そのままギルドの出口へ向かって歩き出した。
もう十分だった。
言い返す必要もない。
自分を証明する必要もない。
過去に縛られ続ける理由もなかった。
その背中へ――
「おい!」
レインの怒鳴り声が響く。
二人は止まらない。
「待てって言ってんだろ!」
それでも歩き続ける。
フィオナは小さくため息をついた。
「……気分悪くなっちゃった」
そして、何事もないように言う。
「場所、変えよ」
「……うん」
その一言が、レインの怒りに火をつけた。
「このクソアマ……!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「調子に乗りやがって!」
ギルドの中が静まり返る。
冒険者たちが一斉に視線を向けた。
レインは怒りのまま、一歩踏み出す。
「ぶん殴ってやる!」
拳を振り上げた、その時だった。
リュカが反射的にフィオナの前へ立つ。
「やめろ!」
震える声だった。
それでも、一歩も退かなかった。
レインは鼻で笑う。
「どけ、役立たず」
「俺に逆らうとどうなるか教えてやる!」
その瞬間。
「……邪魔」
フィオナが静かに呟いた。
ひらり、と右手を振る。
次の瞬間。
ごうっ――!
強烈な突風がギルドの中を吹き抜けた。
「なっ――」
レインの身体が、ふわりと宙へ浮く。
そして。
ぽーん。
「うわああああああああっ!!」
情けない悲鳴を上げながら、レインはギルドの入口を飛び越え、そのまま遥か彼方へ吹き飛んでいった。
どごぉん!!
遠くで盛大な衝突音が響く。
ギルドの中は、水を打ったように静まり返った。
ヴィオラも。
ガルドも。
呆然と立ち尽くしている。
フィオナは何事もなかったかのように、ぱんぱんと手を払った。
「行こ」
「……うん」
二人はそのまま歩き出す。
背後から、レインの怒鳴り声だけが聞こえてきた。
「てめぇぇぇぇぇっ!!」
「覚えてろよ!!」
「女に守ってもらって恥ずかしくねぇのか!!」
悔しさと怒りが入り混じった叫びだった。
けれど。
フィオナは一度も振り返らない。
リュカも。
もう、振り返らなかった。
かつての自分なら。
その言葉に傷つき、立ち止まっていたかもしれない。
けれど今は違う。
隣には、フィオナがいる。
自分を信じてくれる人がいる。
だからもう。
過去へ縛られることはない。
二人は並んで歩き続ける。
後ろから響く怒鳴り声は。
もう二人の足を止めることはなかった。




