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勇者パーティを追放された僕は、エルフの君と来世まで恋をする  作者: Atelier Lotus


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第3話 三年後の勇者パーティ

 リュカがレインたちのパーティに加わってから、三年が経った。


 三年。


 決して短い時間ではない。


 新人だった四人は、数え切れないほどの依頼をこなしてきた。


 薬草採取。


 魔物討伐。


 商人護衛。


 ダンジョン探索。


 希少素材の回収。


 時には命の危険もあった。


 だが、そのたびにレインたちは乗り越えてきた。


 青銅。


 鉄。


 銅。


 銀。


 金。


 ミスリル。


 そして――オリハルコン。


 冒険者の等級は、下から順にそう分かれている。


 そのさらに上には、最高位であるアダマンタイト級が存在する。


 レインたちのパーティは、ついに上から二番目の階級であるオリハルコン級へ昇格した。


 若くしてオリハルコン級へ至った冒険者。


 剣士レイン・グレイヴ。


 錬金術士ヴィオラ・ベルネージュ。


 タンクのガルド・バルガス。


 そして、魔法使いリュカ・ヴァレリー。


 人々は、いつしか彼らをこう呼ぶようになっていた。


 ――勇者パーティ。


 その名を呼ばれるたび、街の人々は目を輝かせた。


「勇者パーティだ!」


「レイン様たちだ!」


「オリハルコン級冒険者だぞ!」


 酒場では歓声が上がり、ギルドでは受付嬢が丁寧に頭を下げる。


 子どもたちは憧れの眼差しを向け、商人たちはこぞって護衛を依頼したがった。


 しかし。


 その中で。


 リュカだけは、何も変われなかった。


 火は使えない。


 水も使えない。


 風も使えない。


 土も使えない。


 三年前に発現した謎の爆裂魔法。


 リュカが使える魔法は、今もそれだけだった。


 そしてその爆裂魔法は、あまりにも扱いづらかった。


 威力は凄まじい。


 だが、範囲が広すぎる。


 狭いダンジョンでは仲間を巻き込む。


 資源採取の依頼では素材を吹き飛ばす。


 護衛任務では周囲への被害が大きすぎる。


 街の近くでは絶対に使えない。


 つまり。


 ほとんどの依頼で、リュカの魔法は役に立たなかった。


「リュカ、荷物」


「あ、うん」


 ダンジョンの入口。


 レインが短く告げる。


 リュカは慌てて荷物を背負った。


 食料。


 水袋。


 予備の武器。


 薬品。


 解体用の道具。


 素材回収用の袋。


 すべてを背負うと、肩に重みが食い込む。


 それでもリュカは笑った。


「大丈夫。持てるよ」


 レインは軽く頷くだけだった。


 かつてのように、


「無理するなよ」


 とは言わない。


 ダンジョンの奥へ進む。


 前衛はレインとガルド。


 後衛でヴィオラが援護する。


 リュカは一番後ろ。


 戦闘が始まれば、下がる。


 終われば、素材を回収する。


 魔物の腹を裂き、魔素袋を取り出す。


 角。


 牙。


 爪。


 皮。


 血液。


 換金できる部位を丁寧に仕分ける。


「リュカ」


 レインの声が飛ぶ。


「さっさとしてくれよ」


「あ、ごめん」


 リュカは手を速めた。


「おっせえな」


 ガルドが苛立ったように吐き捨てる。


「素材回収くらいしかやることねえんだから、早くしてくれよ」


「うん。ごめん」


 リュカは笑って答える。


 笑うしかなかった。


 ◇


 夜。


 ダンジョンの安全地帯で野営することになった。


 リュカは火を起こし、鍋をかける。


 干し肉。


 豆。


 野菜。


 香草。


 水。


 簡単な煮込み料理だった。


 冒険中の食事としては、悪くないはずだった。


 少なくとも、昔はみんな喜んで食べてくれていた。


「できたよ」


 リュカは器に料理をよそい、三人へ渡す。


 ガルドが一口食べる。


 そして顔をしかめた。


「……なんだこれ」


「え?」


「こんな不味い飯しかできねえのか?」


 リュカの手が止まる。


「ご、ごめん。味が薄かった?」


「味以前の問題だろ」


 ガルドは器を地面へ置いた。


「お前、これしか出来ないだろ?」


 胸が痛んだ。


 リュカは何か言おうとして、言葉を飲み込む。


 ヴィオラが小さくため息をついた。


「もう少し栄養のことも考えてほしいわね。明日も探索は続くのよ」


「うん。気をつける」


 レインは黙って食べていた。


 昔なら、きっと言ってくれた。


「俺は好きだけどな」


 あるいは。


「冒険中に温かい飯が食えるだけありがたいだろ」


 けれど今のレインは、何も言わない。


 ただ黙って食べ終え、器をリュカへ差し出した。


「片づけといてくれ」


「……うん」


 リュカは器を受け取る。


 冷めた煮込み料理を、ひとりで食べた。


 味は、よく分からなかった。


 ◇


 探索は順調だった。


 少なくとも、レインたちにとっては。


 レインの剣は鋭くなった。


 ガルドの防御はさらに堅くなった。


 ヴィオラの錬金術も進歩し、薬品や魔導具を使った支援は見事だった。


 リュカだけが、変わらない。


 いや。


 変わったものもある。


 荷物を運ぶのは上手くなった。


 炊事も覚えた。


 洗濯も早くなった。


 魔物の解体も、素材の仕分けも、誰より正確になった。


 肩揉みだって、いつの間にか上達していた。


「おい、リュカ」


「何?」


「肩、揉んでくれ」


 休憩中、ガルドが首を回しながら言う。


「あ、うん」


 リュカはガルドの後ろへ回り、肩を揉む。


「もっと強く」


「うん」


「そこじゃねえよ」


「ごめん」


「ほんと、お前は気が利かねえな」


 リュカは笑う。


「ごめん」


 謝ることが増えた。


 いつからだろう。


 自分が一日に何度も謝るようになったのは。


 いつからだろう。


 仲間の顔色ばかり窺うようになったのは。


 いつからだろう。


 レインが、リュカを見て笑わなくなったのは。


 ◇


 ダンジョン探索を終え、四人は街へ戻った。


 ギルドへ入ると、すぐに歓声が上がる。


「勇者パーティが戻ったぞ!」


「今回も無事か!」


「さすがレイン様!」


 人々が集まってくる。


 レインは慣れた様子で笑い、軽く手を上げた。


 ヴィオラも涼しげに微笑む。


 ガルドは豪快に笑いながら、近くの冒険者たちに声をかけた。


 リュカはその少し後ろに立っていた。


 荷物を背負ったまま。


 泥で汚れた服のまま。


 素材袋を両手に持ったまま。


「あれが勇者パーティの魔法使い?」


「そうらしいぞ」


「でも、戦ってるところ見たことないな」


「荷物持ちじゃないのか?」


 小さな声が聞こえた。


 聞こえないふりをした。


 受付で依頼完了の手続きを済ませる。


 報酬が支払われる。


 レインが受け取り、袋へしまった。


「今日の宿はいつものところでいいな」


「ええ」


「酒場も寄ろうぜ」


 ガルドが笑う。


 リュカは少し迷ってから声をかける。


「あの、僕も――」


 レインが振り返る。


「リュカは素材の売却と装備の手入れを頼む」


「あ……うん」


「あと洗濯もな」


 ガルドが言う。


「明日までに頼むぞ」


「分かった」


 リュカは頷いた。


 三人は酒場へ向かう。


 リュカはひとり、素材袋を抱えて別の窓口へ向かった。


 ◇


 それでも。


 リュカはパーティを離れなかった。


 離れられなかった。


 なぜなら、ここは自分を拾ってくれた場所だったから。


 あの日。


 冒険者ギルドで落ち込んでいた自分に、レインは手を差し出してくれた。


「今は、だろ?」


「焦らなくていいさ」


「俺たちだって、まだ新人なんだから」


 その言葉に、どれほど救われただろう。


 初めて爆裂魔法を使った時。


 レインは言ってくれた。


「さすがリュカだ!」


 ガルドも笑ってくれた。


「すごい威力だ! 莫大な魔力は伊達じゃなかったんだな!」


 ヴィオラも微笑んでくれた。


「やっぱり、あなたには才能があったのよ」


 あれは嘘ではなかった。


 きっと本心だった。


 だから。


 今の三人が冷たいのは、自分が変われないからだ。


 自分が役に立てないからだ。


 自分が弱いからだ。


 リュカはそう思っていた。


 そう思うしかなかった。


 ◇


 数日後。


 再びダンジョン探索。


 魔物との戦闘が始まった。


 レインが前へ出る。


 ガルドが攻撃を受ける。


 ヴィオラが薬品で援護する。


 リュカは後方で荷物を守る。


 魔物が一匹、横道から飛び出した。


「リュカ!」


 ヴィオラが叫ぶ。


 リュカは反射的に手を上げた。


 爆裂魔法。


 だが、すぐに手を下ろす。


 ここで使えば、みんなを巻き込む。


 その一瞬の迷い。


 魔物がリュカへ飛びかかる。


「うわっ!」


 レインが素早く駆け、魔物を斬り伏せた。


 助かった。


 そう思った直後。


 レインの冷たい声が落ちた。


「何やってるんだ」


「ご、ごめん」


「まともな魔法も使えないんだからさ」


 レインは剣についた血を払いながら言った。


「たまには役に立ってくれよ」


 リュカは息を呑んだ。


 胸の奥が、ぎゅっと痛む。


「……ごめん」


 それしか言えなかった。


 ガルドが鼻で笑う。


「オリハルコン級って言っても、お前は青銅級じゃん」


 ヴィオラは何も言わなかった。


 ただ、冷めた目でリュカを見ていた。


 リュカは俯く。


 反論などできない。


 事実だった。


 レインたちは強くなった。


 自分だけが、三年前のままだった。


 勇者パーティ。


 オリハルコン級冒険者。


 その肩書きが、リュカには重すぎた。


 ◇


 夜。


 宿の部屋。


 リュカはひとり、洗濯物を畳んでいた。


 レインたちは酒場へ行っている。


 楽しそうな笑い声が、窓の外から遠く聞こえてきた。


 昔は、リュカもそこにいた。


 四人で同じテーブルを囲んでいた。


 失敗談で笑い合っていた。


 安い料理を分け合っていた。


 未来の話をしていた。


 いつか金級になろう。


 いつかミスリル級へ行こう。


 いつか、オリハルコン級に。


 そして。


 その夢は叶った。


 叶ったはずだった。


 なのに。


 どうして、こんなに苦しいのだろう。


 リュカは自分の手を見る。


 何も生み出せない手。


 仲間を守れない手。


 爆裂魔法しか使えない手。


「……僕が悪いんだ」


 小さく呟く。


 そう思えば、まだ耐えられた。


 自分が無能だから。


 自分が役に立たないから。


 だから、みんなが苛立つのも仕方ない。


 そう思えば。


 まだ、ここにいられる。


 リュカは洗濯物を畳み続けた。


 丁寧に。


 一枚ずつ。


 仲間の機嫌を損ねないように。


 明日もまた、笑っていられるように。


 かつて優しかったレインも。


 よく笑っていたガルドも。


 静かに励ましてくれたヴィオラも。


 三年という月日の中で、少しずつ変わっていた。


 そしてリュカだけが。


 あの日の言葉を、まだ信じ続けていた。


「焦らなくていい。ゆっくり成長していこうぜ」


 その言葉だけを。


 ずっと。

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