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勇者パーティを追放された僕は、エルフの君と来世まで恋をする  作者: Atelier Lotus


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第31話 明日はどこへ行こうか

 かつて。


 リュカにとって、自分が無能ではないと証明することは、何よりも大切だった。


 魔法を使いたかった。


 強くなりたかった。


 仲間に認められたかった。


 役に立ちたかった。


 必要とされたかった。


 そうでなければ。


 自分には、何の価値もないと思っていた。


 けれど。


 今は、少し違う。


 火を使える。


 水を生み出せる。


 風を操れる。


 大地を動かせる。


 火。


 水。


 風。


 土。


 四種類すべての魔粒子へ働きかけ、妖精たちから力を借りることができる。


 かつて、何一つ魔法を使えなかった青年が。


 今では、四大属性すべてを扱えるようになった。


 けれど。


 今のリュカにとって。


 それはもう、自分の価値を証明するためのものではなかった。


 誰かを見返すためでもない。


 無能ではないと叫ぶためでもない。


 魔法を使って、料理を作る。


 飲み水を得る。


 暑い日には風を吹かせる。


 眠りやすいように地面を整える。


 そして。


 隣にいる人と、一緒に笑う。


 それだけでよかった。


 魔法が使えるようになったことよりも。


 リュカには、もっと大切なものができていた。


     ◇


 その夜。


 二人は食事を終え、焚き火のそばに並んで座っていた。


 薪が、ぱちぱちと音を立てている。


 空には無数の星が瞬き。


 妖精たちは火の周囲や草花の間を、気ままに飛び回っていた。


「ねえ、リュカ」


 フィオナが夜空を見上げたまま声をかける。


「何?」


「明日はどこへ行く?」


「決めてない」


「そうなの?」


「だって、目的地なんてないし」


「そっか」


 フィオナは少し考える。


 そして。


「じゃあ、美味しいものがあるところ」


「そればっかりだね」


「大事でしょ?」


「まあね」


 リュカは笑った。


「何か食べたいものはあるの?」


「お肉」


「昨日も食べたじゃん」


「じゃあ魚」


「今日食べたよ」


「甘いもの」


「結局、全部食べたいんでしょ?」


「ばれた?」


「分かるよ」


 フィオナが楽しそうに笑う。


 リュカもつられて笑った。


 目的地などない。


 急ぐ必要もない。


 決められた日程もない。


 誰かに命令されることもない。


 夜明け前に起こされることも。


 遅れたと怒鳴られることも。


 失敗を責められることもない。


 明日。


 どこへ行くのか。


 何を食べるのか。


 どんな景色を見るのか。


 どこで眠るのか。


 全部。


 二人で決めればいい。


 思えば。


 勇者パーティにいた頃。


 リュカは、明日が来ることを楽しみにしたことなどほとんどなかった。


 明日は何を言われるのだろう。


 何を失敗するのだろう。


 また怒られるのではないか。


 捨てられるのではないか。


 そんなことばかり考えていた。


 けれど今は。


 明日はどんな街へ行こう。


 どんな料理を食べよう。


 どんな妖精に会えるだろう。


 フィオナは何を見て笑うだろう。


 そんなことを考えている。


 明日が来ることが。


 少しだけ、楽しみだった。


「……不思議だな」


 リュカが呟く。


「何が?」


「前は、魔法さえ使えるようになれば、全部うまくいくと思ってた」


「うん」


「魔法が使えれば、みんなに認めてもらえる」


「うん」


「役に立てれば、捨てられない」


「……うん」


「ずっと、そう思ってた」


 リュカは自分の手を見る。


 今なら。


 火を灯せる。


 水を生み出せる。


 風を吹かせられる。


 大地を動かせる。


 けれど。


「今は、誰かに認めてもらうために魔法を使いたいとは思わないんだ」


「じゃあ、何のために使いたいの?」


 フィオナが尋ねる。


 リュカは少し考える。


「美味しい料理を作るため」


「うん」


「困ってる人がいたら、助けるため」


「うん」


「それから」


 リュカはフィオナを見る。


「フィオナと、楽しく旅をするためかな」


「……そっか」


 フィオナは少しだけ目を細めた。


 それから。


 いつものように、何でもないことのように笑った。


「じゃあ、いっぱい使わないとね」


「いっぱい?」


「私との旅、楽しくするんでしょ?」


「そうだけど」


「まずは明日の朝ご飯」


「そこから!?」


「大事だよ?」


「結局、食べ物なんだね」


「あははは!」


 笑い声が夜の森へ溶けていく。


 リュカはもう。


 自分を無能とは呼ばなかった。


 誰かに認めてもらう必要もない。


 勇者パーティを見返す必要さえなかった。


 自分には魔法の才能がなかったのではない。


 ただ。


 誰も、自分の才能を理解できなかっただけだった。


 そして今は。


 自分が何をできるのか。


 何を大切にしたいのか。


 自分自身で知っている。


 何より。


 自分を理解しようとしてくれる人が、隣にいる。


「リュカ」


「何?」


「お腹空いた」


「さっき食べたばっかりじゃん!」


「明日の話をしてたら」


「なんで明日の話でお腹が空くの!?」


「美味しいものの話をしたから」


「フィオナが勝手に言っただけだろ!」


「少しだけ残ってない?」


「ないよ!」


「本当に?」


「三杯もおかわりしたの、フィオナだからね!?」


「あははは!」


 フィオナが笑う。


 リュカも笑った。


 過去へ戻る必要はない。


 誰かを見返す必要もない。


 復讐のために生きる必要もない。


 今日を生きる。


 明日を楽しみにする。


 そして。


 大切な人と一緒に旅をする。


 明日はどこへ行こう。


 何を食べよう。


 どんな景色を見よう。


 そんなことを話しながら。


 二人は、同じ焚き火を囲んで笑っていた。


 今のリュカにとって。


 それだけで。


 十分だった。

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