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勇者パーティを追放された僕は、エルフの君と来世まで恋をする  作者: Atelier Lotus


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第30話 復讐したくないの?

 その日の夜。


 リュカとフィオナは焚き火を囲みながら、夕食を食べていた。


 鍋の中には、リュカが作った温かな煮込み料理。


 フィオナは、いつものように美味しそうに匙を口へ運んでいる。


「おいしい!」


「ありがとう」


「リュカ」


「何?」


「おかわり」


「もう三杯目だよ?」


「魔法の修行で疲れたから」


「修行したのは僕だよ!?」


「あははは!」


 フィオナが楽しそうに笑う。


 リュカもつられて笑った。


 焚き火が、ぱちぱちと音を立てる。


 夜空には無数の星が瞬き。


 妖精たちは、火の周囲や木々の間を自由に飛び回っていた。


 穏やかな夜だった。


 しばらくして。


 フィオナが、何かを思い出したように顔を上げた。


「ねえ、リュカ」


「何?」


「そういえば、今さらなんだけどさ」


「うん」


「あの時、どうして森にいたの?」


 リュカの手が止まった。


「あの時?」


「初めて会った日」


 フィオナは焚き火の向こう側から、リュカを見る。


「泣きながら、森の中で爆発を起こしてたでしょ?」


「……ああ」


「何かあったんだろうなとは思ってたけど、ちゃんとは聞いてなかったなって」


「そういえば、話してなかったね」


「うん」


 フィオナは、空になった器を膝の上へ置いた。


「聞いてもいい?」


「……いいよ」


 リュカは少しだけ迷った。


 けれど。


 もう隠す理由もなかった。


「僕は、三年間……勇者パーティにいたんだ」


「勇者パーティ?」


「うん」


 リュカは、少しずつ話し始めた。


 十六歳で故郷を出たこと。


 冒険者ギルドで、常人を遥かに上回る魔力量を持っていると分かったこと。


 その一方で。


 火。


 水。


 風。


 土。


 四大属性のどれにも適性がなかったこと。


 それでも。


 莫大な魔力量を期待され、新人パーティへ誘われたこと。


 剣士のレイン。


 錬金術士のヴィオラ。


 盾役のガルド。


 最初は。


 皆、優しかった。


『焦らなくていい』


『いつか魔法を使えるようになる』


『一緒に成長していこう』


 そう言ってくれた。


 だからリュカも、信じていた。


 いつか。


 自分も魔法を使えるようになる。


 仲間と共に戦えるようになる。


 そう信じて。


 三年間。


 魔法を学び続けた。


 けれど。


 何年経っても。


 リュカの才能は開花しなかった。


 唯一使えたのは。


 仲間まで巻き込む危険のある、謎の爆裂魔法だけ。


 やがて。


 リュカの役目は戦闘ではなくなった。


 荷物持ち。


 炊事。


 洗濯。


 肩揉み。


 魔物の解体。


 素材の回収。


「最初は、それでもよかったんだ」


 リュカは焚き火を見つめながら言った。


「僕には戦えなかったから。せめて、自分にできることをしようと思ってた」


「うん」


「でも、いつの間にか……それが僕の仕事じゃなくて、僕がやって当然のことになってた」


 感謝されることはなかった。


 料理を作れば。


『不味い』


『遅い』


『犬の飯以下だ』


 そう笑われた。


 荷物を持っても。


 洗濯をしても。


 魔物を解体しても。


 素材を回収しても。


 誰も、それを働いているとは思ってくれなかった。


 戦えない。


 ただそれだけで。


 リュカは何もしていない者として扱われた。


「それは酷いね」


 フィオナの声から、笑みが消えていた。


「うん」


「三年間、ずっと?」


「少しずつ酷くなっていった」


 勇者パーティは強くなった。


 青銅から始まり。


 鉄。


 銅。


 銀。


 金。


 ミスリル。


 そして。


 オリハルコン級へ昇格した。


 人々から勇者パーティと呼ばれるようになり。


 名声を得た。


 その頃には。


 レインたちは、すっかり変わっていた。


『俺たちは命を懸けて魔物を狩ってる』


『お前は安全な場所で、不味い料理を作ってるだけだ』


『それで俺たちと同じオリハルコン級を名乗れるんだから、いいよな』


 そして。


 新しい魔法使いが見つかった日。


 リュカは、あまりにも簡単に追放された。


『お前、もういらないから』


 杖も。


 装備も。


 パーティの金で買ったものだからと取り上げられた。


 去り際にも。


 わざと聞こえるように、悪口を言われた。


 穀潰し。


 無能。


 役立たず。


 不味い飯しか作れない。


 恥ずかしくて生きていけない。


「それで」


 リュカは小さく笑った。


「あの森に逃げたんだ」


「……」


「誰にも見られたくなくて。泣いてるところも。惨めなところも」


 けれど。


 行き場のない感情が抑えられなかった。


 怒り。


 悲しみ。


 悔しさ。


 惨めさ。


 そして。


 自分に唯一残されていた爆裂魔法への憎しみ。


『こんな魔法しか使えないから!』


『無能だから!』


『こんな魔法なんて、消えてしまえ!』


 そう叫びながら。


 何度も。


 何度も。


 爆発を起こした。


「それで、私に怒鳴られたんだ」


「うん」


「森を荒らしているのは誰だ、って」


「……ごめん。最初、かなり怒鳴ったね」


「当然だよ。僕が森を荒らしてたんだから」


「でも、そんなことがあった直後だったんだ」


「うん」


 フィオナはしばらく黙っていた。


 焚き火の炎を見つめる。


 やがて。


 静かに尋ねた。


「リュカ」


「何?」


「その人たちに、復讐したくないの?」


 リュカの手が止まった。


 焚き火が、ぱちぱちと音を立てる。


 無能と呼ばれた。


 役立たずと笑われた。


 お荷物だと言われた。


 料理を馬鹿にされた。


 荷物を持たされた。


 肩を揉まされた。


 何をしても、感謝されなかった。


 そして。


 最後には。


 杖も。


 装備も。


 居場所も。


 すべてを奪われた。


 追放されたあの日。


 悔しかった。


 悲しかった。


 腹が立った。


 泣いた。


 だから。


 恨んでもいいのかもしれない。


 憎んでもいい。


 復讐したいと思っても。


 何もおかしくない。


 けれど。


「……別に、いいかな」


 リュカは答えた。


 フィオナが首を傾げる。


「いいの?」


「うん」


「腹は立たない?」


「立つよ」


「恨んでない?」


「……たぶん、少しは」


「じゃあ、どうして?」


 リュカは少し考える。


 そして。


 目の前を見る。


 焚き火。


 温かい料理。


 満天の星空。


 楽しそうに飛び回る妖精たち。


 そして。


 自分の料理を美味しそうに食べてくれるフィオナ。


「今のほうが楽しいから」


「……」


「フィオナと旅をして」


「うん」


「美味しいものを食べて」


「うん」


「妖精たちと話して」


「うん」


「魔法を覚えて」


「うん」


「明日はどこへ行こうかって考えて」


 リュカは笑った。


「そんなことをしてるほうが、ずっと楽しい」


 フィオナは、少しだけ目を細めた。


「そっか」


「うん」


 過去を忘れたわけではない。


 許したわけでもない。


 傷が消えたわけでもない。


 ただ。


 復讐のために使うには。


 今の時間が、あまりにも大切だった。


「それにさ」


 リュカは続ける。


「今は、恨みよりも感謝のほうが大きいんだ」


「感謝?」


「うん」


 追放されたから。


 フィオナと出会った。


 妖精眼鏡をかけた。


 妖精たちを見ることができた。


 彼らの声を聞くことができた。


 妖精誘導法を知った。


 そして。


 自分が無能ではなかったと知ることができた。


「もちろん、だからって、あの人たちがしたことを許せるわけじゃないよ」


「うん」


「でも」


 リュカはフィオナを見る。


「あの日、追放されなかったら、フィオナとは出会えなかったかもしれない」


「……」


「妖精たちとも、話せないままだった」


「そうかもね」


「だから今は」


 リュカは笑った。


「復讐するより、この恩に報いたい」


「恩?」


「うん」


「フィオナが僕にしてくれたこと」


 妖精眼鏡を貸してくれた。


 一緒に旅をしようと誘ってくれた。


 魔法を教えてくれた。


 失敗しても。


 笑って、もう一度やろうと言ってくれた。


「それから、妖精たちにも」


 リュカは周囲を見る。


「たくさん力を貸してもらったから」


 その瞬間。


 妖精たちが一斉にこちらを見た。


「本当だよ!」


「すごく迷惑だったんだから!」


「見えるようになった途端、こき使うんだからさ!」


「こき使ってないよ!」


「火をつけて!」


「水を出して!」


「風を吹かせて!」


「地面を平らにして!」


「お願いしてるだけだろ!?」


「この恩は高くつくよ!」


「えっ」


「いっぱい感謝しなさい!」


「毎日お菓子を用意して!」


「遊んで!」


「寝かせて」


「最後のは何もしなくていいじゃん!」


 妖精たちが、楽しそうに騒ぎ始める。


 リュカは困った顔をした。


「ご、ごめん」


「また謝った!」


「申し訳ございませんでした!」


「よろしい!」


 フィオナが吹き出した。


「あはははは!」


 妖精たちも笑う。


 リュカも。


 少し遅れて笑った。


 過去には。


 笑われることが怖かった。


 自分を馬鹿にされているのではないか。


 また責められるのではないか。


 そう思っていた。


 けれど今は違う。


 同じ笑い声でも。


 こんなにも温かい。


 復讐よりも。


 恨みよりも。


 今、ここにある笑顔のほうが大切だった。


 そして。


 リュカは思う。


 自分を傷つけた者たちのために生きるのではなく。


 自分へ手を差し伸べてくれた者たちのために生きたい。


 復讐によって、過去へ戻るのではなく。


 受け取った優しさを。


 いつか。


 誰かへ返していきたい。


 それが。


 今のリュカが選んだ道だった。

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