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勇者パーティを追放された僕は、エルフの君と来世まで恋をする  作者: Atelier Lotus


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第26話 四つの力を一つに

 四種の妖精たちとの付き合い方を、少しずつ覚え始めた頃。


 フィオナは、リュカへ新たな課題を出した。


「今日は、四つを同時に使ってみようか」


「……四つ?」


「うん」


 フィオナは指を折りながら数える。


「火、水、風、土。全部」


「同時に!?」


 リュカは思わず声を上げた。


 これまで。


 リュカは一種類ずつ、魔粒子へ働きかけてきた。


 火を使う時は、サラマンダーへ。


 水を使う時は、ウンディーネへ。


 風なら、シルフ。


 土なら、ノーム。


 一つの流れだけに意識を集中し。


 妖精たちの声を聞き。


 少しずつ力を借りてきた。


 それでも、まだ失敗することはある。


 頼み方を間違える。


 焦って力を込めそうになる。


 妖精の機嫌を損ねる。


 そんな自分が。


 四種類すべてを、同時に扱う。


「無理じゃない?」


「やる前から諦めるの?」


「そういうわけじゃないけど……」


 リュカは周囲を見る。


 火の妖精――サラマンダー。


 水の妖精――ウンディーネ。


 風の妖精――シルフ。


 土の妖精――ノーム。


 四種の妖精たちも、興味深そうにこちらを見ている。


「本当にできると思う?」


「さあ?」


「そこは、できるって言ってよ」


「だって、まだやってないもん」


「またそれ?」


 フィオナは楽しそうに笑った。


「でも、リュカにしかできないかもしれないよ」


「僕にしか?」


「うん」


 世界に存在する魔粒子は、一種類だけではない。


 火。


 水。


 風。


 土。


 四種類すべてが。


 それぞれ異なる流れを持ちながら、同じ世界を巡っている。


 互いに離れているように見えて。


 時には交わり。


 影響を与え合い。


 世界の循環を形作っている。


 通常の魔法使いは、自らの適性に合った魔粒子へしか干渉できない。


 火属性の魔法使いなら、火。


 水属性なら、水。


 複数の適性を持つ者も存在するが。


 四大属性すべてへ同時に働きかけられる者など、ほとんどいない。


 けれど。


 リュカは違う。


 どの属性にも適性がない。


 だからこそ。


 一つの属性に縛られることなく。


 すでに世界へ存在している四種類すべての魔粒子へ、直接語りかけることができる。


「四つを同時に導けたら」


 フィオナは言う。


「今までとは違う魔法が使えるかもしれない」


「違う魔法?」


「うん。リュカにしか使えない魔法」


 その言葉に。


 リュカの胸が、わずかに高鳴った。


 自分にしか使えない魔法。


 三年間。


 何一つ使えなかった自分が。


 そんなものへ辿り着けるかもしれない。


「……やってみる」


「うん」


 リュカは妖精眼鏡をかけ直した。


 その瞬間。


 世界が、無数の光に満ちる。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 四種類の魔粒子が。


 それぞれ異なる速さで。


 異なる方向へ流れている。


 リュカは、静かに息を整えた。


 まず。


 赤い光を見る。


 熱を帯び。


 揺らめきながら上昇する、火の流れ。


 次に。


 青い光。


 大地を潤しながら、低い場所へ流れていく水。


 緑の光は。


 形を変えながら、自由に空を巡る。


 黄色い光は。


 地中深く。


 人の感覚では捉えられないほど、ゆっくりと動いている。


「……全然違う」


 リュカが呟いた。


「何が?」


「流れが」


 一種類ずつ見ていた時とは違う。


 四つを同時に意識すると。


 それぞれの性質の違いが、よりはっきりと分かった。


 火は、上へ向かおうとする。


 水は、低い場所へ流れる。


 風は、どこまでも自由に巡る。


 土は、その場を支えながら、ゆっくりと動く。


 四つすべてを。


 同じ方法で扱うことなどできない。


「全部を一緒に動かそうとしないでね」


 フィオナが声をかける。


「え?」


「それぞれ、行きたいところが違うから」


「……うん」


「同じ形に揃えるんじゃない」


 支配しない。


 無理やり合わせない。


 異なるものを。


 異なるまま理解する。


「一つずつ声を聞いて」


「うん」


「そのうえで、みんなにお願いするの」


 リュカは頷いた。


 そして。


 妖精たちへ語りかける。


「サラマンダー」


「何?」


「小さな火を灯してほしい」


「任せて!」


「ウンディーネ」


「なあに?」


「少しだけ、水を集めてくれる?」


「いいよ」


「シルフ」


「遊ぶの?」


「今は修行。優しい風をお願い」


「はーい」


「ノーム」


「眠い」


「少しだけでいいから、土を持ち上げてくれる?」


「……あとで寝ていい?」


「もちろん」


「じゃあ、少しだけ」


 それぞれの返事が返ってくる。


 リュカは、ゆっくりと両手を広げた。


 魔力で引き寄せない。


 急かさない。


 四種類すべてを、自分の都合で揃えようとしない。


 ただ。


 それぞれの流れを見つめる。


 それぞれの声を聞く。


 そして。


 ほんの少しだけ。


 自分の願いを重ねる。


 最初に。


 赤い魔粒子が集まった。


 リュカの右手の上へ、小さな炎が灯る。


 次に。


 青い光が集まり。


 左手の上へ、水の球が浮かんだ。


 緑の魔粒子が周囲を巡り。


 柔らかな風が吹く。


 そして。


 黄色い光が揺れ。


 足元から、小さな土の塊が浮かび上がった。


「……!」


 リュカは目を見開く。


 火。


 水。


 風。


 土。


 四つの現象が。


 今。


 同時に存在している。


 けれど。


 その瞬間だった。


 炎が大きく揺れた。


 水の球が崩れかける。


 風が乱れ。


 土の塊が地面へ落ちた。


「あっ!」


「慌てないで」


 フィオナが声をかける。


「でも、崩れそうで……!」


「全部を一度に見ようとしすぎ」


「四つ同時に使えって言ったの、フィオナじゃん!」


「使うのと、無理に維持するのは別だよ」


「難しいこと言わないでよ!」


「ほら。声を聞いて」


 リュカは息を整えた。


 火だけを見ない。


 水だけを見ない。


 風だけを追わない。


 土だけを動かそうとしない。


 四つすべてを。


 同じ強さで支配しようとするのではなく。


 それぞれが自由に存在できる場所を作る。


「サラマンダー。少し火を弱めて」


「分かった!」


「ウンディーネ。そのまま形を保ってくれる?」


「いいよ」


「シルフ。もう少しゆっくり」


「はーい」


「ノーム。もう一度だけお願い」


「仕方ないなあ」


 妖精たちが応える。


 再び。


 炎が灯る。


 水が浮かぶ。


 風が吹く。


 大地が動く。


 今度は。


 互いの流れを邪魔しない。


 火は火として。


 水は水として。


 風は風として。


 土は土として。


 それぞれの性質を保ったまま。


 同じ場所へ存在している。


「……できた」


 リュカは呆然と呟いた。


 フィオナが笑う。


「できたね」


 まだ。


 一つ一つの力は小さい。


 炎は、蝋燭より少し大きいだけ。


 水は、掌に収まるほど。


 風は、髪を揺らす程度。


 土も、小石ほどの塊しか動かせない。


 けれど。


 大きさなど、今はどうでもよかった。


 かつて。


 四大属性のどれにも適性がないと言われた青年が。


 今。


 火。


 水。


 風。


 土。


 四種類すべての魔粒子と。


 同時に繋がっている。


「すごいよ、リュカ」


 フィオナが言った。


「……本当に?」


「うん」


「でも、まだこんなに小さいよ」


「大きさの話じゃないよ」


 フィオナは、リュカの周囲に浮かぶ四つの現象を見る。


「普通の魔法使いは、一つの属性を扱うだけでも大変なの」


「うん」


「でも、あなたは四つすべての声を同時に聞いた」


「……」


「しかも、どれかを押さえつけることなくね」


 リュカは、もう一度周囲を見る。


 サラマンダーが炎の近くで胸を張っている。


 ウンディーネは水の球と戯れている。


 シルフは風に乗りながら笑っている。


 ノームは、浮かんだ土の上で眠そうに欠伸をしていた。


「ありがとう、みんな」


「ちゃんと感謝できたね!」


「偉い偉い!」


「遊ぼう!」


「もう寝る」


 妖精たちの声が重なる。


 リュカは笑った。


 四つの力を一つにする。


 それは。


 四種類の魔粒子を混ぜ合わせることではなかった。


 同じ形へ無理やり揃えることでもない。


 異なるものを。


 異なるまま認める。


 それぞれの声を聞き。


 それぞれの流れに寄り添い。


 同じ目的のために、少しずつ力を貸してもらう。


 それこそが。


 リュカにとっての。


 四つの力を一つにするということだった。

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