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勇者パーティを追放された僕は、エルフの君と来世まで恋をする  作者: Atelier Lotus


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第21話 世界は、あなたの道具じゃないから

 爆裂魔法の正体を知ったリュカは、次の修行へ進むことになった。


「じゃあ、今度はちゃんと魔粒子を動かしてみようか」


「ちゃんと?」


「うん。昨日までのは駄目」


「……そんなにはっきり言わなくても」


「だって、無理やり引っ張って、ぶつけて、爆発させてたんでしょ?」


「……はい」


 何も言い返せなかった。


 しかも。


 周囲を飛んでいる妖精たちまで、うんうんと頷いている。


「ほら。妖精たちも同意してるよ」


「……本当にごめんなさい」


「また謝った!」


「だって僕が悪いから!」


 妖精たちの声を聞きながら、フィオナが楽しそうに笑う。


「まあ、知らなかったんだから仕方ないよ」


「そう言ってくれるの、フィオナだけだよ……」


「でも、もう知ったからね」


「……はい」


「これからは駄目だよ」


「分かりました」


 リュカは素直に頷いた。


 そして。


 妖精眼鏡越しに、改めて世界を見る。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 四種類の魔粒子が、それぞれ異なる動きを見せながら、世界を巡っている。


 今までのリュカにとって。


 魔粒子とは、魔法を使うために必要なものだった。


 ただ、それだけだった。


 けれど。


 妖精眼鏡をかけてから、その認識は少しずつ変わり始めていた。


 魔粒子には流れがある。


 その中で妖精たちが生きている。


 自分が今まで知らなかっただけで。


 そこには確かに、一つの世界が存在していた。


「それじゃあ」


 リュカは前へ手を伸ばす。


「やってみるね」


「待って」


「え?」


「何するつもり?」


「魔粒子を動かす」


「どうやって?」


「魔力で」


「駄目」


「ええっ!?」


 即答だった。


「じゃあ、どうするの?」


「まずね」


 フィオナは、リュカの隣へ立つ。


「魔粒子を支配しようとしちゃ駄目」


「……支配?」


「そう」


 フィオナは空気の中を漂う無数の光を見つめた。


「魔力で捕まえて、無理やり引っ張って、自分の思い通りに動かそうとしないこと」


「でも」


 リュカは首を傾げる。


「魔法って、魔力で魔粒子を操るものじゃないの?」


「人間はそう考えるね」


「違うの?」


「間違ってはいないよ」


 フィオナは答える。


「人間の魔法使いは、自分の適性に合った魔粒子へ魔力で干渉する。火属性なら火。水属性なら水。風属性なら風。土属性なら土」


「うん。そう習った」


「魔力を使って魔粒子を集めて、動かして、魔法へ変換する。それも一つの方法だよ」


「じゃあ、いいじゃん」


「でも、私たちエルフは少し違う」


「どう違うの?」


 フィオナは少し考えた。


 そして。


 近くを飛んでいた一体の妖精へ、そっと人差し指を差し出す。


 妖精は、ふわりと宙を舞い。


 その小さな身体を、フィオナの指先へ預けた。


「お願いするんだよ」


「……お願い?」


「うん」


「誰に?」


「世界に」


「……世界?」


 あまりにも大きな言葉に、リュカは目を瞬かせる。


 フィオナは笑った。


「そんな難しい話じゃないよ」


 そう言って、指先に座る妖精を見る。


「この子たちに、少しだけ力を貸してってお願いするの」


「妖精に?」


「それだけじゃないよ」


 フィオナは空を見上げた。


 風が吹く。


 草が揺れる。


 無数の魔粒子が、ゆっくりと世界を巡っていく。


「魔粒子には、それぞれ自然な流れがあるんだよ」


 火には、火の流れがある。


 水には、水の流れがある。


 風には、風の流れがある。


 土には、土の流れがある。


「どこから来て、どこへ向かって、どう巡っていくのか。それぞれにちゃんと流れがある」


 リュカは、妖精眼鏡越しに世界を見る。


 確かに。


 以前なら、ただの色とりどりの光にしか見えなかった。


 けれど今は。


 少しだけ分かる。


 同じ場所に留まっているわけではない。


 それぞれが異なる方向へ。


 異なる速さで。


 絶えず流れ続けている。


「その流れを無理やり変えようとしちゃ駄目」


「じゃあ、どうするの?」


「見る」


「見る?」


「うん」


 フィオナは微笑んだ。


「まず、どこから来ているのかを見る」


 リュカは魔粒子を見る。


「次に、どこへ向かっているのかを見る」


 その流れを追う。


「そして、声を聞く」


「声……」


「うん」


 リュカは耳を澄ませた。


 妖精たちの楽しそうな声が聞こえる。


 けれど。


 フィオナが言っているのは、きっとそれだけではない。


 世界を見る。


 流れを見る。


 そして。


 そこにあるものを理解しようとする。


「無理やり動かすんじゃない」


 フィオナは言った。


「自分の思い通りに従わせるんでもない」


「……」


「今ある流れを見て。その流れに寄り添って」


 そして。


 自分が望む方向へ。


 ほんの少しだけ。


「力を貸してって、お願いするんだよ」


 リュカは黙ってフィオナを見る。


 魔法を学び始めて三年。


 そんなことを教えてくれた人は、一人もいなかった。


 魔法とは。


 魔力によって魔粒子を操るもの。


 魔法使いの意思によって、世界へ現象を起こすもの。


 ずっと、そう教わってきた。


「でも……」


「何?」


「お願いしても、断られたら?」


「その時は諦める」


「えっ!?」


 フィオナはあっさり答えた。


「だって嫌だって言ってるんでしょ?」


「それじゃ魔法が使えないじゃん!」


「別の方法を考えればいいよ」


「そんな簡単に……」


「簡単だよ」


 フィオナは笑う。


「だって」


 そして。


 穏やかに告げた。


「世界は、あなたの道具じゃないから」


「……」


 リュカは何も言えなかった。


 世界は、自分の道具ではない。


 火も。


 水も。


 風も。


 土も。


 魔粒子も。


 妖精たちも。


 自分のためだけに存在しているわけではない。


「だから、無理やり従わせようとしなくていいんだよ」


 支配しない。


 捕まえない。


 力で従わせない。


 見る。


 聞く。


 理解する。


 そして。


 必要な時に、少しだけ力を貸してもらう。


「……できるかな」


 リュカが呟く。


「さあ?」


「そこは、できるって言ってよ」


「まだやってないのに分からないよ」


「……フィオナって、意外と適当だよね」


「今さら?」


 フィオナが笑う。


 リュカも、少しだけ笑った。


「じゃあ、やってみる」


「うん」


 リュカは再び、妖精眼鏡越しに世界を見る。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 四種類の魔粒子が、静かに世界を巡っている。


 今までなら。


 魔力を込めていた。


 力任せに引き寄せていた。


 けれど。


 今日は違う。


 リュカは手を伸ばした。


 魔力は込めない。


 引っ張らない。


 捕まえない。


 ただ。


 見る。


 どこから来ているのか。


 どこへ向かっているのか。


 どんなふうに流れているのか。


 そして。


 その中を飛ぶ妖精たちを見る。


 リュカは少し迷った末。


 恐る恐る口を開いた。


「……少しだけ、力を貸してくれる?」


「……」


 何も起こらない。


「……」


「……」


 リュカはフィオナを見る。


「何も起きないけど」


「最初から上手くいくわけないでしょ」


「そうなの!?」


「当たり前じゃん」


「さっき簡単って言ったよね!?」


「お願いするのは簡単だよ?」


「そういう意味!?」


 フィオナが笑う。


 妖精たちも笑っていた。


 リュカは少しだけ頬を膨らませる。


 けれど。


 不思議と嫌ではなかった。


 失敗しても。


 誰も怒鳴らない。


 誰も馬鹿にしない。


 誰も無能だと言わない。


 ただ。


 笑って。


 もう一度やればいい。


「ほら」


 フィオナが言う。


「もう一回」


「……うん」


 リュカは再び世界を見る。


 そして。


 今度こそ。


 その流れを理解しようと、じっと見つめた。


 この日。


 リュカは初めて知った。


 魔法とは。


 ただ力で世界を従わせるものではない。


 世界を見て。


 その声を聞き。


 寄り添い。


 共に歩むこともできるのだと。


 それはまだ。


 ほんの小さな一歩に過ぎなかった。


 けれど。


 かつて誰からも理解されず。


 無能と呼ばれ続けた青年は。


 この日初めて。


 自分だけの魔法へ続く道を歩き始めた。

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