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勇者パーティを追放された僕は、エルフの君と来世まで恋をする  作者: Atelier Lotus


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第15話 失敗してもいいの?

 薬草採取の依頼を終えてから、数日後。


 リュカとフィオナは、初めて二人で魔物討伐の依頼を受けることになった。


 討伐対象は、森に棲みついた一体の魔物。


 決して強大な魔物ではない。


 冒険者としてある程度の経験を積んだ者なら、それほど苦戦する相手でもなかった。


 それでも。


 リュカの手は、微かに震えていた。


「……いた」


 木々の向こう。


 獣に似た魔物が、低い唸り声を上げている。


 まだ、こちらには気づいていない。


 リュカは妖精眼鏡をかけた。


 その瞬間。


 世界が変わる。


 森の中を流れる無数の光。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 火、水、風、土。


 四種類の魔粒子が、穏やかな流れを描きながら森を満たしている。


 そして。


 その光の中を、小さな妖精たちが自由に飛び回っていた。


「……よし」


 リュカは小さく呟いた。


 今なら見える。


 今まで見ることのできなかった魔粒子が。


 自分の魔力に反応する、四種類すべての魔粒子が。


 これなら。


 今度こそ。


 ちゃんと戦えるかもしれない。


 けれど。


 戦闘。


 その言葉を意識した瞬間。


 胸の奥が、急に苦しくなった。


 失敗したらどうしよう。


 足を引っ張ったらどうしよう。


 魔法を外したら。


 フィオナを巻き込んだら。


 また。


 怒鳴られるかもしれない。


『何やってんだよ!』


『お前のせいで台無しだ!』


『本当に使えねえな!』


『無能は黙って荷物でも持ってろ!』


 かつての仲間たちの声が、頭の中で蘇る。


「リュカ?」


「……っ」


 フィオナに名前を呼ばれ、リュカは肩を震わせた。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫!」


 慌てて答える。


 大丈夫。


 大丈夫だ。


 今度こそ役に立たなければ。


 せっかくフィオナが一緒に旅をしてくれたのだから。


 失望させてはいけない。


 嫌われてはいけない。


 捨てられてはいけない。


「僕がやる」


「え?」


「僕が倒すよ」


 リュカは一歩前へ出た。


「でも――」


「大丈夫だから!」


 思ったよりも強い声が出た。


 フィオナが少しだけ目を見開く。


 けれど。


 何も言わずに頷いた。


「……分かった」


 リュカは両手を前へ向ける。


 妖精眼鏡越しに、周囲を見つめた。


 見える。


 魔粒子が。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 四種類すべての魔粒子が、自分の魔力に反応している。


「……動け」


 リュカは魔力を放った。


 周囲の魔粒子が、僅かに揺れる。


「もっと……」


 さらに魔力を込める。


 魔粒子が、リュカの周囲へ集まり始めた。


 できる。


 見えている。


 今までとは違う。


 今度こそ。


 今度こそ、ちゃんとやらなければ。


 失敗してはいけない。


 絶対に。


 失敗してはいけない。


「もっと!」


 リュカは魔力を強めた。


 その瞬間。


『ちょっと!』


『痛いってば!』


『引っ張らないで!』


『またこの人だ!』


『無理やり動かさないでよ!』


 妖精たちの声が響いた。


「え?」


 リュカが戸惑う。


 だが。


 もう遅かった。


 四種類の魔粒子が、リュカの莫大な魔力によって無理やり引き寄せられていく。


 火。


 水。


 風。


 土。


 自然に流れていた四つの魔粒子が。


 激しく衝突した。


「あ」


 次の瞬間。


 ドオオオオオオオオンッ!!


 凄まじい轟音が森に響き渡った。


 爆風が吹き荒れる。


 土が舞い上がる。


 木々が大きく揺れる。


「うわああっ!」


 リュカは思わず腕で顔を覆った。


 やがて。


 土煙がゆっくりと晴れていく。


「……」


「……」


 リュカとフィオナは、並んでその光景を見つめた。


 魔物は。


 いなかった。


 正確には。


 原形を留めていなかった。


「……あ」


 リュカの顔から血の気が引く。


 倒した。


 確かに倒した。


 しかし。


 これでは素材を回収できない。


 討伐証明となる部位もない。


 何より。


 魔物の体内に形成される魔素袋まで、跡形もなく吹き飛ばしてしまった。


 依頼を達成した証拠がない。


 報酬も受け取れないかもしれない。


 そして。


『またやったああああっ!』


『だから無理やり動かさないでって言ったでしょ!』


『痛かった!』


『この人、全然反省してない!』


『せっかく見えるようになったのに!』


 妖精たちが、リュカの周囲を飛び回りながら一斉に抗議する。


「ご、ごめんなさい!」


 リュカは反射的に頭を下げた。


「本当にごめんなさい!」


『私たちに謝ってる?』


『魔物に謝ってる?』


『フィオナに謝ってる?』


「全員です!」


『誰に謝ってるか分からない謝罪は駄目!』


「ごめんなさい!」


『また謝った!』


 そんなリュカを見ながら。


 フィオナは爆発跡を眺めた。


 それから、空中を飛び回っている妖精たちを見る。


「あー」


 そして。


 のんびりと呟いた。


「こりゃ妖精たちも怒ってるなあ」


「フィオナ! 助けて!」


「頑張って」


「またそれ!?」


 妖精たちは、まだ怒っている。


『無理やり引っ張らないで!』


『魔粒子はあなたの道具じゃないんだから!』


『もっと優しくしてよ!』


「ご、ごめんなさい!」


『だから謝るだけじゃなくて!』


 リュカは完全に困り果てていた。


 しかし。


 その時。


 魔物の残骸を見たリュカの表情が変わった。


 笑顔が消える。


「……失敗した」


 小さく。


 そう呟いた。


 魔物は倒した。


 けれど。


 素材は回収できない。


 魔素袋も失った。


 討伐した証拠すら残っていない。


「ごめんなさい!」


 気づけば。


 リュカは深く頭を下げていた。


「……え?」


「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」


「ちょっと、リュカ?」


「僕が失敗したから! 素材も駄目にして、魔素袋もなくなって、討伐した証拠も――」


「うん」


「……え?」


「失敗したね」


 フィオナは、あっさりと言った。


 リュカは顔を上げる。


 フィオナは爆発跡を見ていた。


 そして。


 笑った。


「あーあ。見事に吹き飛んじゃったね」


「……」


「これは回収できないなあ」


「……怒らないの?」


「なんで?」


 フィオナは不思議そうに首を傾げた。


「だって……」


 リュカは言葉に詰まる。


「僕が失敗したから」


「うん」


「報酬、もらえないかもしれない」


「そうだね」


「素材も全部なくなった」


「うん」


「魔素袋も……」


「なくなったね」


「だったら……」


 どうして怒らないの?


 その言葉を。


 リュカは、なかなか口にできなかった。


 フィオナは少し考える。


 そして。


 何でもないことのように言った。


「次は失敗しなきゃいいじゃん」


「……え?」


「今回は失敗した」


「……うん」


「じゃあ、次はもう少し違うやり方を試してみようよ」


「……」


「それでも失敗したら?」


 フィオナは笑った。


「また、その次に考えよう」


 リュカは呆然とした。


 次。


 その次。


 失敗した後にも。


 続きがある。


「……失敗しても、いいの?」


 思わず。


 そんな言葉が口からこぼれた。


 フィオナは目を瞬かせた。


「そりゃ、できればしない方がいいけど」


「……」


「でも、するでしょ。失敗くらい」


 あまりにも当たり前のことのように言う。


「私だってするよ」


「フィオナも?」


「するする」


「でも、フィオナはエルフだし……」


「エルフは失敗しないと思ってる?」


「なんとなく……」


「するよ。普通に」


 フィオナは笑う。


「道に迷うし」


「うん」


「忘れ物するし」


「うん」


「待ち合わせにも遅れるし」


「それは駄目じゃない?」


「ほら。もう元気になった」


「……あ」


 リュカは言葉を失った。


 フィオナは楽しそうに笑っている。


 怒鳴られなかった。


 責められなかった。


 無能と言われなかった。


 役立たずとも。


 お荷物とも。


 言われなかった。


 ただ。


 失敗したね。


 次は失敗しなきゃいいじゃん。


 それだけだった。


「……そっか」


 リュカは小さく呟いた。


 失敗してもいい。


 もちろん。


 本当は失敗しない方がいい。


 誰かを傷つけるような失敗なら、反省しなければならない。


 迷惑をかけたなら、謝らなければならない。


 けれど。


 一度の失敗で。


 すべてが終わるわけではない。


 次がある。


 その次もある。


 やり直すことができる。


 そんな当たり前のことを。


 リュカは三年間のうちに、忘れていた。


「フィオナ」


「何?」


「……ありがとう」


「何が?」


「分からない」


「何それ」


 フィオナは笑った。


 リュカも。


 ほんの少しだけ笑った。


 その直後。


『ちょっと!』


 妖精の声が響く。


『いい話みたいに終わらせないで!』


「……ごめんなさい」


『また謝った!』


 フィオナが吹き出す。


「あはははは!」


「笑わないでよ!」


 森の中に。


 フィオナの笑い声と。


 妖精たちの怒った声と。


 少しだけ困ったリュカの声が響いた。


 失敗してもいい。


 次がある。


 リュカはその日。


 忘れていた当たり前のことを、一つだけ思い出した。

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