エピローグ 再会
エルシオン王国へ帰ってから、しばらくの時が流れた。
フィオナは、生きる目的を見失っていた。
城下町を当てもなく歩く日々。
森へ行き、大きな木の枝に腰掛け、遠くをぼんやりと眺める日々。
何をしていても、心は満たされなかった。
城の者たちも。
国民たちも。
誰一人として、フィオナにそのことを口にする者はいなかった。
事情を知っているから。
何百年もの間、大切な人を探し続けてきたことを知っているから。
それが、皆の優しさだった。
その日も。
フィオナは森の中を静かに歩いていた。
ふと。
楽しそうな笑い声が聞こえる。
視線を向けると、一人の幼いエルフの少年が、妖精たちを追いかけて遊んでいた。
「待ってよー!」
無邪気な笑顔。
楽しそうに飛び回る妖精たち。
その何気ない光景に、フィオナは自然と足を止める。
そして。
何気なく、魂を見る魔法を発動した。
次の瞬間。
フィオナの身体が硬直する。
「……え」
思わず口元を両手で覆う。
信じられなかった。
涙が、とめどなく溢れる。
間違えるはずがない。
何十年。
何百年。
探し続けた。
誰よりも愛した人。
目の前の少年の魂は――リュカだった。
もちろん。
この子は、リュカではない。
名前も違う。
記憶も違う。
生まれも違う。
それでも。
魂だけは、間違いなくリュカだった。
少年は不思議そうにフィオナを見つめる。
「お姉さん?」
「なんで泣いてるの?」
フィオナは涙を拭い、優しく微笑んだ。
「おかえり、リュカ」
少年は目をぱちぱちと瞬かせる。
「……僕、リュカじゃないよ?」
「うん」
「知ってる」
フィオナはしゃがみ込み、少年の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「あなたが、私の大切な人だから」
少年は少し困ったように笑う。
「変なお姉さん」
「そうかもね」
フィオナも優しく笑った。
すると少年は、何かを思い出したように尋ねる。
「あっ!」
「お姉さん、お名前なんていうの?」
フィオナは穏やかに答えた。
「フィオナよ」
「フィオナお姉さん!」
「僕はね、ルネっていうの!」
その名前を聞いた瞬間。
フィオナの目から、再び涙が溢れた。
「……ルネ」
優しく、その名を呼ぶ。
ルネは嬉しそうに笑う。
「あのね!」
「今、妖精さんたちと遊んでるの!」
「妖精って何が好きか知ってる?」
フィオナは涙を浮かべたまま、柔らかく微笑んだ。
「ええ」
「ぜひ、教えて」
「うん!」
ルネは無邪気に駆け出す。
妖精たちも、楽しそうにその後を飛び回る。
フィオナも、小さく笑って歩き出した。
もう、その瞳に迷いはなかった。
長い、長い約束は。
ようやく果たされたのだから。
かつて、人間だった青年と。
エルフの少女は恋をした。
一度は死によって別れた。
それでも。
魂は長い時を越え、再び巡り会う。
そして今。
二人は、もう一度出会うことができた。
新しい人生で。
新しい名前で。
新しい未来を歩むために。
優しい風が森を吹き抜ける。
その風に乗って、妖精たちの楽しそうな笑い声が響いた。
まるで二人の再会を、世界そのものが祝福しているかのように。




