第133話 帰る場所
数百年ぶりに。
フィオナは故郷、エルシオン王国へ帰ってきた。
懐かしい世界樹。
変わらぬ王城。
変わらぬ景色。
だが。
リュカだけが、そこにはいなかった。
王城へ足を踏み入れると。
アルディオンとエルミニアが静かに待っていた。
二人は何も言わない。
ただ、フィオナの姿を見つめる。
そして次の瞬間。
エルミニアは駆け寄り、娘を強く抱きしめた。
「おかえり」
その一言で。
フィオナの張り詰めていた心が、少しだけほどける。
アルディオンも優しく微笑んだ。
「よく帰ってきたね」
しばらく親子三人は、言葉もなく寄り添っていた。
やがて。
アルディオンが静かに口を開く。
「フィオナ」
「……うん」
「もう、諦めなさい」
その言葉は冷たく響いた。
フィオナは何も答えない。
ただ静かに俯く。
けれど。
分かっていた。
父は、自分を突き放したいのではない。
これ以上、自分が苦しまないように。
幸せになってほしいからこそ、そう告げているのだ。
そして。
父も母も。
リュカとの別れを、まだ乗り越えられていない。
私と同じくらい。
いや。
私以上に。
愛する息子を失った悲しみを、今も胸に抱え続けている。
だからこそ。
フィオナは父を責めることなどできなかった。
その夜。
久しぶりに戻った自分の部屋。
扉を閉めた瞬間だった。
張り詰めていた心が、音を立てて崩れる。
「……リュカ」
その名を呼んだ途端。
涙が止まらなくなった。
声を押し殺しながら。
誰にも聞かれないように。
一人、ベッドへ顔を埋めて泣き続ける。
「会いたい……」
「会いたいよ……」
何百年経っても。
その想いだけは、少しも変わらなかった。
約束は、まだ果たせない。
世界は、あまりにも広い。
運命は、あまりにも残酷だった。
それでも。
フィオナは、諦めることだけはできなかった。
涙に濡れた枕を抱き締めながら。
長い、長い夜が更けていく。
まだ誰も知らない。
運命が再び二人を巡り合わせようとしていることを。
誰も――知らなかった。




