第121話 戻ってこないか
静まり返った戦場。
長い沈黙の末、レインがゆっくりと口を開いた。
「……強くなったな」
リュカは何も答えない。
レインは腕を組み、小さく鼻を鳴らした。
「だが、勘違いするな」
「今回は、たまたま俺たちの調子が悪かっただけだ」
「それに」
「あの魔物は、俺たちがかなり削っていた」
「お前たちは、最後を仕留めただけだ」
どこまでも上から目線の言葉だった。
レインは満足そうに頷く。
「まあ、いい」
「今のお前なら」
「勇者パーティに入れてやってもいい」
その一言を聞いた瞬間。
リュカの胸に、過去の記憶が蘇る。
荷物持ち。
料理係。
雑用。
肩揉み。
そして、追放。
――当時は分からなかった。
なぜ。
ここまで酷い仕打ちを受けなければならなかったのか。
なぜ。
同じ仲間だったはずの自分が、あれほど軽く扱われたのか。
しかし。
今なら分かる。
レインたちは、出会った頃からこんな人間ではなかった。
仲間を思いやり。
困っている人を助けようとする。
勇者を志す、優しい冒険者だった。
だが。
オリハルコン級という肩書き。
勇者パーティという称号。
人々から浴びる称賛。
そのすべてが、少しずつ彼らから謙虚さを奪っていった。
初心を忘れさせた。
いつしか。
自分たちは特別な存在なのだと。
自分たちは選ばれた人間なのだと。
そう思うようになってしまったのだ。
だから。
目の前にいるリュカに対しても。
最後まで「入れてやる」という言葉しか出てこない。
その時だった。
「……ふざけないで」
静かな声が響く。
フィオナだった。
穏やかな彼女には珍しく、その瞳には怒りが宿っていた。
「リュカを追放したのは、あなたたちでしょう?」
「無能だと決めつけて」
「荷物持ちにして」
「料理を作らせて」
「雑用まで押しつけて」
「その人に向かって、『入れてやる』?」
フィオナはレインを真っ直ぐ見つめる。
「そんな言い方しかできないなら」
「リュカは、もうあなたたちの仲間になる必要なんてありません」
戦場に、重い沈黙が流れた。




