第116話 敗北
巨大ダンジョン前。
激しい衝突音が、大地を震わせていた。
勇者レインの剣が閃く。
しかし。
魔眼獅子の漆黒の毛皮は、まるで鋼鉄のように硬く、刃を受け止める。
「くそっ!」
「ちっとも刃が入らねぇ!」
レインは距離を取り、大きく叫んだ。
「セシリア!」
「援護してくれ!」
「はい!」
セシリアは杖を掲げ、渾身の魔法を放つ。
幾重もの魔法陣が展開され、巨大な火球が魔眼獅子を呑み込んだ。
轟音。
爆炎。
しかし。
炎が晴れると、魔眼獅子はほとんど傷一つ負っていなかった。
「そんな……」
セシリアの表情が青ざめる。
「もう一度です!」
続けざまに魔法を放つ。
だが、結果は変わらない。
「レインさん……!」
「これが……私の限界です!」
レインは舌打ちした。
「ちっ!」
「役立たずが!」
その言葉に、セシリアの肩が震える。
次の瞬間。
魔眼獅子の鋭い爪が大地を裂いた。
「ぐああぁっ!」
ガルドが全身で受け止める。
しかし、その巨体は大きく吹き飛ばされ、岩壁へ叩きつけられた。
「ガルド!」
ヴィオラが駆け寄る。
ガルドの全身は傷だらけだった。
血が止まらない。
「ヴィオラ!」
「ポーションを!」
レインが叫ぶ。
ヴィオラは悔しそうに首を振った。
「……もうないわ」
「全部使い切った!」
レインは歯を食いしばる。
魔眼獅子はなおも悠然と立ち、黄金の魔眼で四人を見下ろしていた。
まるで。
遊び相手が弱すぎるとでも言うように。
レインは拳を握り締める。
「ガルドは瀕死だ!」
「退却するぞ!」
誰一人、反論はなかった。
勇者パーティは仲間を抱え、巨大ダンジョンから命からがら撤退する。
その姿を見た人々は、言葉を失った。
オリハルコン級冒険者。
アウローラ魔導国最強の勇者パーティ。
その四人ですら、災厄級魔物には歯が立たなかった。
街は、静かな絶望に包まれた。




