第108話 輪廻
リュカは静かに尋ねた。
「では……」
「魂は、また人として生まれることができるのですか」
オルドはゆっくりと頷く。
「可能性はある」
「ただし」
「それは極めて困難な道よ」
静かな声が、謁見の間へ響く。
「魂が人としての徳を保ち」
「正しく命を終えたならば」
「再び生命の身を借りる可能性はある」
リュカの表情に、わずかな希望が宿る。
しかし。
オルドは静かに続けた。
「だが」
「同じ世界に生まれる保証はない」
「同じ時代に生まれる保証もない」
「同じ種族に生まれる保証もない」
「再び巡り会える保証など」
「どこにもない」
重い沈黙が流れる。
オルドは黄金の瞳で二人を見つめた。
「ほとんど不可能に近い」
「人として生を受けること自体」
「それほどまでに尊いことなのだ」
「幾億、幾兆の縁が重なり」
「ようやく人として生を受ける」
「それほどまでに」
「人間として生まれることは難しい」
そして。
その声はさらに厳かになる。
「されど」
「罪を重ね」
「魂に積んだ徳を失えば」
「三悪道は免れぬことを覚悟すべし」
「輪廻は」
「己の望むままに巡るものではない」
「生き方こそが」
「魂の行き先を決める」
「善を積めば善き果報を招き」
「悪を積めば悪しき果報を招く」
「それが、この世界の理である」
リュカは静かに拳を握る。
来世は、ただ願うだけでは辿り着けない。
今をどう生きるか。
その一日一日の積み重ねこそが、未来の魂を形作っていくのだと、初めて知った。




