第106話 諦めません
謁見の間を、静かな沈黙が包んでいた。
白竜皇オルドは何も語らない。
ただ、黄金の瞳でリュカを見つめている。
その沈黙は、まるで最後の答えを待っているかのようだった。
やがて。
リュカは静かに顔を上げる。
「諦めません」
短い一言。
だが、その声に迷いはなかった。
「誰かを犠牲にしてまで」
「生きるつもりはありません」
「生命の理を踏みにじるつもりもありません」
一歩、前へ出る。
「それでも」
「僕は」
「フィオナと同じ時を生きたい」
隣に立つフィオナは、何も言わない。
ただ、リュカの決意を信じるように微笑んでいた。
再び沈黙が訪れる。
誰も言葉を発しない。
白竜の民たちも、固唾を呑んで成り行きを見守っていた。
どれほどの時間が流れたのか。
やがて。
オルドは小さく微笑んだ。
「……其方の覚悟は分かった」
その一言だけで。
リュカには伝わった。
白竜皇は、自分の覚悟を認めてくれたのだと。
しかし。
オルドは静かに首を横へ振る。
「長く添い遂げる術はない」
その答えは変わらない。
生命の理は覆せない。
それでも。
オルドは続けた。
「しかし」
リュカとフィオナは同時に顔を上げる。
黄金の瞳は、どこか遠い未来を見つめるように細められていた。
「再び巡り会う可能性ならばある」
二人は息を呑む。
「巡り……会う?」
リュカが思わず呟く。
オルドは静かに頷いた。
「長く共に生きることは叶わぬ」
「だが」
「命は終わっても、すべてが終わるわけではない」
その言葉は。
絶望しかなかった二人の前に、初めて差し込んだ一筋の光だった。
白竜皇オルドは静かに微笑む。
「その話をしよう」
「魂について、な」
千年を超えて生きる白竜皇は。
生命の終わりではなく、その先を語り始めようとしていた。




