第105話 定命
リュカの答えを聞き終えたオルドは、静かに頷いた。
「其方は、ニコラスとは違う」
「だが」
「生命の理は変わらぬ」
謁見の間は静まり返っていた。
オルドは穏やかな口調で語り始める。
「これより語るは」
「神話の時代より命を見届けてきた我ら竜族が、そのように理解している生命の理」
リュカは黙って耳を傾ける。
「人間には定命がある」
「それは、生まれた瞬間より定められている」
「神は人へ身体を与える」
「しかし」
「それは授けるのではない」
「一時、貸し与えているに過ぎぬ」
その言葉に、リュカは静かに目を見開いた。
「貸し与えている……」
その考え方には聞き覚えがあった。
エルシオン王国で。
精霊王アルディオンもまた、長き時を生きる精霊として、同じような生命の理を語っていた。
オルドは静かに頷く。
「ゆえに」
「返す刻もまた、生まれた瞬間より定められている」
黄金の瞳が、真っ直ぐリュカを見つめた。
「何年」
「何月」
「何日」
「何時」
「何分」
「何秒」
「そのすべてが、初めから定められておる」
神より借り受けた身体。
その返却の刻は、生を受けた瞬間から変わることはない。
それが。
生命の理。
オルドは静かに続けた。
「人は」
「その時が来れば」
「身体を神へ返さねばならぬ」
「誰一人として例外はない」
一拍置き。
自らへ視線を向けるように、小さく微笑む。
「それは」
「私であっても例外ではない」
「この土と水の肉体を持つ限り」
その言葉に、リュカは息を呑んだ。
神話の時代より生きる白竜皇ですら。
永遠ではない。
長寿と不死は違う。
どれほど長い時を生きようとも。
肉体を持つ以上、いつか必ず終わりは訪れる。
リュカは拳を握り締めた。
言葉では理解できる。
だが。
フィオナとの未来を思う心は、それを受け入れることができなかった。
オルドは、その葛藤さえ見透かしたように静かに告げる。
「ゆえに」
一拍置く。
「諦めよ」
その一言は、決して突き放すための言葉ではなかった。
精霊王も。
そして白竜皇も。
長き時を生き、多くの命の誕生と死を見届けた末に、同じ結論へ辿り着いていた。
それは、悠久の時を生きた者たちが、それぞれの歩みの果てに見出した生命の理だった。




