第103話 冒涜
謁見の間を、重い静寂が包む。
オルドは黄金の瞳を静かに伏せ、千年前の記憶を語り始めた。
「あれを生と呼ぶことはできぬ」
「ニコラスは、とうの昔に死んでおる」
リュカは目を見開く。
「死んで……いる?」
オルドはゆっくりと頷いた。
「肉体は既に生命を終えている」
「魔核融合体とは」
「死した肉体を無理やり動かし続けるための器に過ぎぬ」
静かな声が、謁見の間へ響く。
「止まった血液を循環させ」
「失われた体温を保ち」
「呼吸なき身体へ空気を送り込む」
「さらに土と水の魔法によって」
「崩壊する肉体を無理やり維持し続ける」
リュカの表情が強張る。
それは。
永遠の命ではなかった。
死を受け入れられず、朽ちた肉体を無理やり動かし続ける存在。
「あれは生ではない」
「ただ、死を認められなかっただけだ」
オルドは続ける。
「魔核融合体は」
「周囲の魔粒子を永久に吸収し続け」
「無限に魔素を生み出す」
「その魔素によって、死んだ肉体を維持していた」
「では……」
リュカが静かに尋ねる。
「それの、何が問題なのですか」
オルドはゆっくりとリュカを見つめた。
「世界の魔粒子は」
「本来、循環することで生命を育んでいる」
「ニコラスは、その循環を奪った」
その声には、わずかな怒りが滲んでいた。
「世界中から魔粒子を喰らい続け」
「魔素循環を歪め」
「淀んだ魔素は魔物を生み」
「ダンジョンを形成し」
「やがて土地そのものを魔王領へと変えていく」
千年前。
世界を覆った魔素汚染。
あれは自然災害ではない。
魔王ニコラスという、たった一人の存在が引き起こした災厄だった。
「己が生きるためだけに」
「世界を喰らった」
オルドは静かに告げる。
「現実逃避であり」
「生命の理への冒涜」
「そして」
「神への冒涜である」
その言葉には、千年という時を生きた白竜皇だからこその重みがあった。
リュカは俯く。
永遠を求めた男は。
世界を救うどころか。
世界そのものを蝕みながら、生き続けていた。
それは。
リュカが求める未来とは、あまりにもかけ離れたものだった。




