第102話 魔王とは何か
白竜皇オルドとの謁見。
王城最奥。
静寂に包まれた謁見の間。
玉座には、一人の青年が静かに腰を掛けていた。
雪のように白い髪。
澄み切った黄金の瞳。
人の姿でありながら、その場にいる誰よりも神々しい威厳を纏っている。
リュカは思わず息を呑んだ。
この方が。
神話の時代より生き続ける最古の竜。
白竜皇オルド。
オルドは二人を静かに見つめ、穏やかに口を開いた。
「人間とエルフの旅の者とは珍しい」
その一言に、リュカは少し緊張が和らぐ。
オルドは続けた。
「すまなかった」
突然の謝罪に、リュカは目を丸くする。
「千年ほど前」
「ニコラスが魔王となって間もない頃」
「世界は、あまりにも濃い魔素に覆われていた」
「魔物とは、生物が魔素に汚染されることで生まれる存在」
「そのことは知っておるであろう?」
「はい」
リュカは頷いた。
「当時の魔素汚染は、今とは比較にならぬほど強大であった」
「故に、生まれた魔物もまた」
「現在とは比べものにならぬほど強かった」
オルドは静かに目を閉じる。
「魔氷巨人も、その一体よ」
「元は、この雪山に棲まう一頭の熊であった」
「魔王ニコラスの魔素に侵され、理性を失い、災厄へと変貌した」
「我が力をもってしても完全に滅ぼすことはできず」
「封印するので精一杯であった」
その声音には、千年という時を越えてなお残る悔いが滲んでいた。
「其方らは」
「我が残した千年越しの後始末をしてくれた」
オルドは静かに頷く。
「感謝する」
白竜の民たちは息を呑んだ。
白竜皇自らが、旅の二人へ感謝を述べている。
それは、この国では滅多に目にすることのない光景だった。
「旅の者よ」
「改めて礼を言う」
「我が民を救ってくれたこと」
「感謝の念、筆舌に尽くし難い」
「望みがあるなら申してみよ」
「其方らには褒美を取らせよう」
リュカは一歩前へ出て、深く一礼した。
「でしたら、一つだけ、お聞きしたいことがあります」
「申せ」
リュカは真っ直ぐオルドを見つめる。
「人間が」
「エルフのように長寿を保つ方法はありませんか」
オルドはすぐには答えなかった。
黄金の瞳がリュカを見つめる。
そして、その隣に立つフィオナへ静かに視線を移した。
「……なるほど」
その一言だけで、全てを察したようだった。
やがて、ゆっくりと首を横へ振る。
「ない」
その答えは、あまりにも短く、重かった。
それでもリュカは諦めない。
「では」
「魔王ニコラスは」
「なぜ千年も生きられたのですか」
オルドはゆっくりと目を閉じる。
まるで千年前の記憶を辿るように。
そして、静かに口を開いた。
「あれを」
「生と呼ぶことはできぬ」




