第101話 解けた封印
アルカ=ヴェル竜皇国を目指し、北への旅を続ける二人。
北へ進むにつれ、山々には深い雪が積もり、吹き抜ける風も冷たさを増していた。
そんなある日。
山奥から、大地を震わせるような轟音が響き渡る。
続いて、助けを求める声が聞こえた。
「助けてください!」
リュカとフィオナは顔を見合わせる。
「行こう!」
「うん!」
二人は声のする方へ駆け出した。
そこでは、多くの人々が必死に避難していた。
一見すれば、人間にしか見えない。
しかし。
「もしかして……」
リュカが小さく呟く。
「この人たち」
「うん」
フィオナが頷く。
「白竜の民だよ」
「え?」
リュカは思わず目を丸くした。
文献には、竜族は人の姿を取ることができると書かれていた。
だが。
実際に目にするのは初めてだった。
「人間と変わらない……」
「普段はこの姿で暮らしてるの」
「竜の姿になるのは、戦う時くらいかな」
フィオナがそう説明した、その時だった。
山を揺るがす咆哮が響く。
二人が視線を向けると。
そこには、山ほどもある巨大な魔物が立っていた。
全身を氷の鎧で覆い。
黒紫色の魔素を噴き出す異形の巨人。
「魔氷巨人……!」
一人の白竜の民が青ざめた顔で叫ぶ。
「まさか……封印が解かれたというのか」
リュカは驚く。
「封印?」
白竜の民は魔氷巨人を見つめたまま答えた。
「かつて、この雪山に生息していた巨大な熊です」
「しかし、魔王ニコラスの時代に大量の魔素を浴び、魔物へと変貌しました」
「千年前、白竜皇オルド様自ら討伐なさいましたが、完全に滅ぼすことはできず、この雪山へ封印されたのです」
長い時を経て。
その封印は、ついに力を失った。
魔氷巨人は咆哮を上げる。
大地が揺れ。
黒紫色の魔素が雪原を侵食していく。
「このままじゃ!」
フィオナが叫ぶ。
リュカは妖精眼鏡を掛けた。
「みんな、力を貸して!」
無数の妖精が光となって舞い上がる。
フィオナも精霊魔法を展開した。
二人は息を合わせ、魔氷巨人へ挑む。
しかし。
妖精魔法でも倒れない。
精霊魔法で砕いた氷も、魔素によって瞬く間に再生していく。
「再生してる……!」
リュカが歯を食いしばる。
「魔素が身体を維持してるんだ!」
フィオナは巨人を見つめる。
そして、ある異変に気付いた。
「リュカ!」
「胸を見て!」
「あそこだけ魔素の流れが違う!」
黒紫色の魔素が、胸の奥へ集まり続けている。
「あれが核だ!」
二人は頷き合う。
妖精たちの力がリュカへ集まる。
精霊たちの力がフィオナへ宿る。
そして。
二人は同時に魔法を放った。
眩い閃光が雪山を照らす。
胸を貫かれた魔氷巨人は、天を震わせる咆哮を上げた。
黒紫色の魔素は静かに霧散し。
巨大な身体はゆっくりと崩れ落ちる。
その最後の表情は。
かつて雪山で生きていた、一頭の熊だった頃を思わせるほど穏やかだった。
「……長い間、苦しかったんだね」
フィオナが静かに目を閉じる。
リュカもまた、魔氷巨人へ手を合わせた。
その姿を見つめていた白竜の民たちは、深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「白竜皇オルド様が千年前に封じられた災厄を……あなた方が終わらせてくださいました」
やがて、その報は王城へ届けられる。
白竜皇自ら封じた災厄を討ち果たした二人。
その功績を称えられ。
リュカとフィオナは、白竜皇オルドへの謁見を許されるのだった。




