EXep3 ガンメモリアル③
■■■は、およそ六年に及ぶ軍事活動を終え、退役することになった。
そして六年ぶりに、故郷――イギリスの土を踏むことができた。
この六年間で、自分が何を得たのかはわからない。
誇りか、傷か、それとも空虚だけか。
ただ一つ、確かな目的だけが胸にあった。
(……母さんに会える)
そして、もう一つ。
なぜ――あの時、僕を撃ったのか。その理由を聞くために。
■■■は船を降り、手の中にあるほんのわずかな金を握りしめ、街へと足を向けた。
潮の匂いと煤けた空気が混じり合い、懐かしさと同時に違和感が胸を刺す。
(それにしても……本当に変わったな、この街は)
視界に入るのは、大勢の黒人たち。
露店、路地、ざわめき――どこか、軍にいた頃の占領地の風景と重なった。
「なぁ兄ちゃん、これ買っていかないか?」
「いえ、急いでいるので」
短く断り、■■■はスーツの襟を正した。
場違いなほど整ったその服装が、逆にこの街で浮いているのが自分でもわかる。
向かう先は、かつて母親が住んでいた家だった。
(記憶が確かなら……この辺りのはずだ)
しかし、そこにあったのは見知らぬ家。
面影すら残っていない、新しい建物だった。
(……そりゃそうか。もう六年だ。引っ越していても不思議じゃない)
そう自分に言い聞かせた、その瞬間だった。
背後から、複数の気配が一斉に迫る。
黒人の男たちが、まるで狙っていたかのように■■■を包囲した。
「おい兄ちゃん。一人で出歩くとよ、怪しい男に襲われちまうぜ?」
(なるほど……最初から狙ってたわけか)
「気づかなかっただろ?」
「いや。いつ襲ってくるのか、ヒヤヒヤしてたよ。案外早く来てくれて助かった。あのまま尾けられるのも面倒だからな」
「……舐めやがって!」
男たちが一斉に襲いかかる。
だが次の瞬間には、全員が地面に転がっていた。
無駄のない動き。
躊躇のない制圧。
六年間で染みついた兵士の身体が、無意識に反応していた。
「……故郷に帰れ。アオガニ共が」
「おい、そこ! 何してる!」
警察の声が響いたが、事情を簡単に説明すると、問題なくその場を後にすることができた。
(……もう夜か)
街灯に照らされた石畳を歩きながら、■■■は空を見上げる。
(いつ……会えるんだろうな、母さん)
その時だった。
視界の端を、懐かしい影と声が通り過ぎた。
七歳ほどの少女と手をつなぐ、一人の女性。
そして、その隣には――見知らぬ男。
その瞬間、■■■の思考は完全に停止した。
手に持っていたカップコーヒーが、地面に落ちる。
中身が飛び散る音すら、耳に入らなかった。
(……嘘だ)
彼は反射的に、その場から逃げるように走り出していた。
(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。あれが母さんなわけない。きっと……見間違いだ)
だが、足は再びその場へ戻っていた。
物陰から、家族の様子を盗み見る。
「ねぇ〜お母さん、何してるの?」
「さっきの人がコーヒーを落としたからね。拭いているのよ」
「お母さん、えらい」
「ありがとう」
(……間違いない)
声も、仕草も、記憶の中の母親そのものだった。
(なんで……なんでだ……父さんは昔、死んだって聞いてたのに……)
母親らしき女性が、こちらに気づき、近づいてくる。
「こら、落としたのなら、ちゃんと拭きなさい」
その一言で、■■■の心は完全に壊れた。
彼は声を上げながら、再びその場を走って逃げ出した。
辿り着いたのは、レストラン裏のゴミ箱。
「……うえっ」
胃の中のものをすべて吐き出し、地面に崩れ落ちる。
その様子を見下ろし、乱暴に蹴り飛ばす影があった。
「おい、そこのあんた。うちのレストランの前で吐くとは、いい度胸ね」
それが――未来のリボルと出会う前の、レオーネだった。
「さっさと行きなさい、ドブネズミが」
■■■は必死にどこか分からず走りスーツが乱れ汗が滝のように流れ夜の公園の地面に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……どうして……こんな……」
(……ジョォン。どうしたらいい……)
彼の脳裏に、かつて自らの手で殺した記憶が蘇る。
「……う……」
その時だった。
白髪で、刀を装備した一人の少女が、闇の中から現れた。
「……君、大丈夫か?」
その声は、不思議なほど静かで――
■■■の止まった時間を、わずかに動かした。




