表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シルバーバレット  作者: 顔のない人間
第二章 腐敗都市リベリオン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/31

EXep3 ガンメモリアル③

 ■■■は、およそ六年に及ぶ軍事活動を終え、退役することになった。

 そして六年ぶりに、故郷――イギリスの土を踏むことができた。


 この六年間で、自分が何を得たのかはわからない。

 誇りか、傷か、それとも空虚だけか。


 ただ一つ、確かな目的だけが胸にあった。


(……母さんに会える)


 そして、もう一つ。

 なぜ――あの時、僕を撃ったのか。その理由を聞くために。


 ■■■は船を降り、手の中にあるほんのわずかな金を握りしめ、街へと足を向けた。

 潮の匂いと煤けた空気が混じり合い、懐かしさと同時に違和感が胸を刺す。


(それにしても……本当に変わったな、この街は)


 視界に入るのは、大勢の黒人たち。

 露店、路地、ざわめき――どこか、軍にいた頃の占領地の風景と重なった。


「なぁ兄ちゃん、これ買っていかないか?」


「いえ、急いでいるので」


 短く断り、■■■はスーツの襟を正した。

 場違いなほど整ったその服装が、逆にこの街で浮いているのが自分でもわかる。


 向かう先は、かつて母親が住んでいた家だった。


(記憶が確かなら……この辺りのはずだ)


 しかし、そこにあったのは見知らぬ家。

 面影すら残っていない、新しい建物だった。


(……そりゃそうか。もう六年だ。引っ越していても不思議じゃない)


 そう自分に言い聞かせた、その瞬間だった。


 背後から、複数の気配が一斉に迫る。

 黒人の男たちが、まるで狙っていたかのように■■■を包囲した。


「おい兄ちゃん。一人で出歩くとよ、怪しい男に襲われちまうぜ?」


(なるほど……最初から狙ってたわけか)


「気づかなかっただろ?」


「いや。いつ襲ってくるのか、ヒヤヒヤしてたよ。案外早く来てくれて助かった。あのまま尾けられるのも面倒だからな」


「……舐めやがって!」


 男たちが一斉に襲いかかる。

 だが次の瞬間には、全員が地面に転がっていた。


 無駄のない動き。

 躊躇のない制圧。

 六年間で染みついた兵士の身体が、無意識に反応していた。


「……故郷に帰れ。アオガニ共が」


「おい、そこ! 何してる!」


 警察の声が響いたが、事情を簡単に説明すると、問題なくその場を後にすることができた。


(……もう夜か)


 街灯に照らされた石畳を歩きながら、■■■は空を見上げる。


(いつ……会えるんだろうな、母さん)


 その時だった。


 視界の端を、懐かしい影と声が通り過ぎた。


 七歳ほどの少女と手をつなぐ、一人の女性。

 そして、その隣には――見知らぬ男。


 その瞬間、■■■の思考は完全に停止した。


 手に持っていたカップコーヒーが、地面に落ちる。

 中身が飛び散る音すら、耳に入らなかった。


(……嘘だ)


 彼は反射的に、その場から逃げるように走り出していた。


(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。あれが母さんなわけない。きっと……見間違いだ)


 だが、足は再びその場へ戻っていた。

 物陰から、家族の様子を盗み見る。


「ねぇ〜お母さん、何してるの?」


「さっきの人がコーヒーを落としたからね。拭いているのよ」


「お母さん、えらい」


「ありがとう」


(……間違いない)


 声も、仕草も、記憶の中の母親そのものだった。


(なんで……なんでだ……父さんは昔、死んだって聞いてたのに……)


 母親らしき女性が、こちらに気づき、近づいてくる。


「こら、落としたのなら、ちゃんと拭きなさい」


 その一言で、■■■の心は完全に壊れた。


 彼は声を上げながら、再びその場を走って逃げ出した。

 辿り着いたのは、レストラン裏のゴミ箱。


「……うえっ」


 胃の中のものをすべて吐き出し、地面に崩れ落ちる。


 その様子を見下ろし、乱暴に蹴り飛ばす影があった。


「おい、そこのあんた。うちのレストランの前で吐くとは、いい度胸ね」


 それが――未来のリボルと出会う前の、レオーネだった。


「さっさと行きなさい、ドブネズミが」


 ■■■は必死にどこか分からず走りスーツが乱れ汗が滝のように流れ夜の公園の地面に倒れ込んだ。


「はぁ……はぁ……どうして……こんな……」


(……ジョォン。どうしたらいい……)


 彼の脳裏に、かつて自らの手で殺した記憶が蘇る。


「……う……」


 その時だった。


 白髪で、刀を装備した一人の少女が、闇の中から現れた。


「……君、大丈夫か?」


 その声は、不思議なほど静かで――

 ■■■の止まった時間を、わずかに動かした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ