第22話 任された
そこは、まるで戦争そのものを切り取ったかのような部屋だった。
円形の司令室。その壁一面――否、天井近くまで覆い尽くすように、大小無数のモニターが並んでいる。
各画面には、腐敗都市リベリオンの上空映像、地上部隊の進行ルート、敵勢力の熱反応、そして各部隊員のバイタルデータが刻々と映し出されていた。
冷却装置の低いうなり。
電子音が絶え間なく響き、空気は張り詰めている。
その中央に、ボスは立っていた。
背筋を伸ばし、腕を組み、モニターの光をその瞳に映しながら、微動だにしない。
「司令……よろしいですか」
側に立つ部下の一人が、わずかに緊張を滲ませた声で問いかけた。
彼の手は、透明カバーに守られた赤いボタンの上に置かれている。
そのボタン一つで、街の一部が消し飛ぶ。
ボスはゆっくりと頷いた。
「ああ。やれ」
短く、しかし重い一言だった。
「了解しました」
部下は一度、深く息を吸い――
赤いボタンを押し込んだ。
カチリという乾いた音。
同時に、司令室内のモニターが切り替わり、発射管制画面が映し出される。
――小型誘導ミサイル、発射。
次の瞬間、都市外縁部から七発の光の軌跡が夜空を裂いた。
轟音。
爆炎。
崩れ落ちるコンクリートと、吹き飛ぶ瓦礫。
リベリオンの封鎖区域に、強制的に“道”が穿たれた。
ボスは無線機を手に取り、低く、しかしはっきりとした声で告げる。
「いいか、お前たち」
その声は、前線にいる全隊員の耳へと届く。
「作戦制限時間は四十分だ」
一瞬の間。
「敵大将を排除、もしくは捕縛した時点で作戦は終了。
それまでに戻れなければ――撤退は認めん」
無線越しに、次々と返事が重なった。
『イエスマム』
『了解』
『任務を遂行します』
ボスは無線機を置き、最後に宣言する。
「――よろしい」
そして、静かに。
「作戦開始だ」
モニターの向こうで、部隊が動き出す。
リボルたちの装甲車も、爆煙の向こうへと突き進んでいった。
――この瞬間、
腐敗都市リベリオンは、完全な戦場へと変わった。
◆◆◆
爆煙がまだ完全には晴れきらない敵本拠地内部。
崩れた壁の隙間から赤い警告灯が明滅し、警報音が断続的に鳴り響いていた。
その混乱のただ中へ、リボルとソフィアは合図と同時に踏み込んだ。
「……侵入成功」
リボルが低く呟く。
足元には瓦礫、空気には焦げた金属の匂い。ここがすでに“戦場”であることを、嫌というほど思い知らされる。
そのとき、無線が短くノイズを走らせた。
『なぁリボル、ここは俺の力が必要じゃないか?』
スランの、どこか軽口めいた声。
「大丈夫だ」
リボルは即答する。
「あらかじめボスから内部構造のパンフレットはもらってある。迷う要素はねぇよ」
『ほんとかよ……』
会話を遮るように、今度はミアの声が割り込んだ。
『ちょっと待って。前方二百メートル、敵反応急増中。
……赤、真っ赤よ。少し進めば敵兵で埋まるわ』
モニター越しでも分かるほどの密度。
ミアの声には、はっきりとした警告が含まれていた。
『正面突破は非推奨。迂回ルートを――』
「いや」
リボルは一切迷わず言い切った。
「このまま突っ切る」
『……突っ切るって、どうするつもりよ』
一瞬の沈黙。
リボルは前を見据えたまま、ソフィアにだけ聞こえる声で告げる。
「ソフィア」
「……はい」
「俺が囮になる。その隙にお前は敵大将を仕留めてこい」
その言葉に、ソフィアの呼吸が一瞬止まった。
「……先輩、それって……」
冗談でも、軽口でもない。
命を賭けた判断だと、すぐに理解してしまった。
「ここから先は乱戦になる」
リボルは無線を握り、淡々と続ける。
「――切るぞ」
それだけ言い残し、通信を遮断。
「リボル先輩!!」
ソフィアの叫びを背に、リボルは加速した。
敵兵が密集する中心部へ――
まるで嵐の中へ身を投げるかのように、迷いなく。
銃声が、怒号が、警報が一斉に弾ける。
その背中を見送りながら、ソフィアは拳を強く握りしめた。
「……後は、任されました」
胸の奥に湧き上がる恐怖を押し殺し、目を細める。
――ここで立ち止まれば、先輩の覚悟を無駄にする。
「行きます……必ず」
そう呟き、彼女は別ルートへと駆け出した。
二人の戦場は、ここで分かれた。




