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シルバーバレット  作者: 顔のない人間
第二章 腐敗都市リベリオン

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第19話 シリアルナンバー

ハルターは剣を構え、闘技場の中央で深く息を吸った。

刃先が微かに震えているのは、興奮か、それとも怒りか。


「おい、お前……武器はどうした」


鋭い問いかけに、リボルは肩をすくめて答える。


「お前みたいなクソ坊主相手に、わざわざ武器を取ると思うのか?」


「……舐めるなッ!」


ハルターの声が跳ね上がる。


「ああ、舐めてるとも」


リボルは薄く笑い、挑発するように続けた。


「君こそ、自分の身の心配をしたほうがいいんじゃないか?」


その一言で、ハルターの理性が弾けた。


彼は剣を強く握り締め、即座に詠唱へと入る。


「我が剣よ――

 我を害する者を、閃光の輝きにて屠れ!」


刃が白く発光し、空気が裂ける。


「――光剣(ライトニングソード)!」


眩い斬撃が一直線に放たれる。

だが――


リボルはその腕の動き、肩の軸、重心移動を一瞬で読み取り、わずかに体をずらした。


光は、彼の背後の結界を掠めて消える。


(……所詮、戦場も知らないリトルルーキーか)


内心でそう呟きながら、リボルは冷静に相手を見据えていた。


「……躱された?」


ハルターの顔に、初めて動揺が走る。


そこへ、観客席から鋭い声が飛んだ。


「ハルター! 今すぐ辞退しなさい!」


「ソフィア・アスペイン……!?」


彼女の姿を認め、ハルターは目を見開く。


「なぜここにいる……!」


「それはこっちの台詞よ」


ソフィアは歯を食いしばり、はっきりと言い放つ。


「どうして、勝てもしない試合に挑んでるの?」


「それは――」


ハルターは剣を構え直し、声を荒げる。


「こいつが“シリアルナンバー”だと名乗ったからだ!

 そんなこと、俺には許せない!」


「その人、シリアルナンバーよ」


「嘘だ!」


「嘘じゃない!」


言い争う二人の間に、低い声が割り込む。


「ソフィア、邪魔をするな」


リボルだった。


「ですが……!」


「大丈夫だ。手加減はする」


その言葉が、火に油を注いだ。


「――舐めるなぁぁッ!!」


ハルターは怒号と共に剣を振るう。

連続で繰り出される斬撃。

だが、どれも――当たらない。


否。

当たらないのではない。


最初から、当てさせてもらえていない。


まるで未来を見られているかのように、リボルは一歩先を行く動きでかわし続けていた。


「くそ……! なんで、当たらない……!」


息が荒くなり、焦りが声に滲む。


リボルは静かに言った。


「それはな――」


一歩踏み込み、間合いの内側に入る。


「あんたの剣が、あまりにも読みやすいからだ」


ハルターの目が見開かれる。


「今まで当たった経験だけで強くなろうとしてきた。

 だから、外した時の引き出しがない」


次の瞬間。


リボルの手が、剣の刃の根元をわずかに掴んだ。


「――ッ!?」


軽く捻り、体重を流す。


「っ!?」


剣は宙を舞い、遠くへ弾き飛ばされる。


(合気……? 日本の武術……?

 こんなものを、ここで……!)


理解が追いつかないまま、ハルターの身体は地面へと叩きつけられた。


鈍い音。


肺から空気が吐き出され、喉から掠れた声が漏れる。


「……ぐっ……」


立ち上がれない。


リボルは見下ろし、淡々と声をかけた。


「どうだ、小僧」


しばらくの沈黙の後、ハルターは震える声で言った。


「……認めます」


顔を伏せ、歯を食いしばる。


「リボル様は、確かにシリアルナンバーです……

 無礼を働き、申し訳ありませんでした」


「よし」


リボルは興味を失ったように背を向ける。


「それなら精進(しょうじん)しろ。じゃあな」


そのとき――


「ようこそ、おいでくださいました」


穏やかな、しかし威厳のある声が響いた。


振り返ると、白衣姿の老紳士が立っていた。

学園長――ウェルター校長だ。


「シリアルナンバー第九位」


深く頭を下げ、こう告げる。


「リボル・クリッカー殿」


闘技場を中心に、学園全体が一気に騒然となった。

ざわめきは波のように広がり、あちこちで抑えきれない声が上がる。


「え……今の、マジか?」 「シリアルナンバーって……あの都市伝説の?」 「ていうか、あのおっさんが……?」


信じられない、という視線が一斉にリボルへと注がれる。

畏怖、好奇、疑念――さまざまな感情が入り混じった空気が、校内を満たしていた。


(やれやれ……やっぱりこうなるか)


リボルは内心でため息をつく。

静かに用事を済ませるつもりだったのに、どうしてこうも目立つ方向へ転がるのか。

彼自身は、ただ“必要なときに戦うだけの男”であるという自覚しかなかった。


そのとき。


「――おいこら、君たち!」


張りのある声が、混沌を真っ二つに割った。


振り返れば、ウェルター校長が腕を組み、仁王立ちしている。


「授業はどうしたのかね?

 ここは見世物小屋ではないぞ」


その一言で、場の空気が一変した。


「やばっ、校長が怒った」 「帰るぞ、帰るぞ」 「続きは後で聞こうぜ!」


生徒たちは蜘蛛の子を散らすように動き出し、ざわめきは徐々に廊下の奥へと消えていく。

ほんの数十秒で、闘技場には必要最低限の人影だけが残された。


「すいませんね」


リボルが気だるげに頭を下げる。


「いやいや」


ウェルター校長は目を細め、どこか懐かしむように笑った。


「相変わらず元気そうで何よりじゃな、リボル」


「校長も、お変わりないようで」


「おほほ、それは嬉しいのぉ」


校長は楽しそうに喉を鳴らす。


「では久しぶりに――

 また昔のように、儂がしごいてやろうか?」


「……それだけは勘弁してください」


リボルの脳裏には、過去に受けた教育という名の地獄が鮮明によみがえっていた。

あれは訓練ではない。拷問に近い。


その反応を見て、校長は満足そうに頷く。


「用件はソフィアから聞いておる」


そして踵を返し、静かに言った。


「立ち話もなんじゃ。

 儂の私室で話そうか」


その言葉に、リボルは小さく息を吐いた。


(さて……本題、か)


表情を引き締め、リボルは校長の後を追って歩き出した。

学園の奥へと続く廊下は、これから語られる話の重さを予感させるように、妙に静まり返っていた。

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