第46話「見られる者たち、選ばれる前に」
朝のリュードは、昨日のざわつきが嘘のように静かだった。
だが、レイルたちの内心は、決して穏やかとは言えなかった。
「……呼び出し、来たね」
宿の廊下で、ミルがそっと言った。
彼女の耳は、昨日からずっとぴくぴくと落ち着きがなかった。
ギルドに着くと、すでにサリナが待っていた。
「ギルド長が、あなたたちにお会いしたいと。少し、正式な立場としてのお話になるかもしれません」
案内されたのは、ギルド支部の奥。重厚な木の扉の向こう――
リュード支部長、ヴァロス・ヘルドンが静かに座っていた。
「……君たちが、“通行証を持つ者たち”か。想像より若いな」
初老の男の声は低く、どこか試すようだった。
眼鏡の奥の視線は、まるで書類を精査するように彼らを観察していた。
レイルが無言でうなずくと、ヴァロスは机の脇に置かれた水晶板を軽く叩いた。
「通行証が共鳴した痕跡は、都市の結界記録にも残る。君たちが森で共鳴を起こした時点で、支部には通知が来ていたよ。
……我々は、それが“何を意味するか”も知っている」
「通行証って……ギルドにとって、そんなに重要なんですか?」
リシェルの問いに、ヴァロスはわずかに目を細めた。
「あれは“力の証”であると同時に、“災厄の鍵”と見なされている。
都市によっては所持そのものが禁忌扱いされることもある。……特に帝国ではな」
レイルたちは、思わず顔を見合わせる。
「じゃあ俺たちは……」
「特別な立場にある。共鳴を起こした“記録保持者”、そして仲魔を進化させる“導き手”でもある」
それは、ただの冒険者ではなく、“歴史に関わる可能性のある者”としての言葉だった。
「……だから俺たちを、試すんですか?」
レイルが言うと、ヴァロスは初めて、わずかに口角を上げた。
「正確には、“評価”し、“記録”する。信頼に値するか、管理下に置くべきか。
市民の前で示せば、君たちは『都市に認められた冒険者』にも、『危険視される異分子』にもなりうる」
「それが……“調査試験”?」
カレンの声には、皮肉と警戒が混ざっていた。
「そう。“公的試験”の体裁を取ることで、君たちの振る舞いを可視化し、都市に記録として刻むことができる。
君たちが“意志を持って出てきた”という形ならば、我々も対応がしやすいのだ」
レイルは静かにうなずいた。
「……出るか、隠れるか。選べってことか」
◇ ◇ ◇
ギルドを出たあと、4人と1体は、静かな裏通りを歩いていた。
「なんか……もう隠れてる場合じゃないって感じ?」
カレンが言い、ミルがきゅっとレイルの袖を握った。
「……でも、見られてるの、すごく怖い。どこかで、何かが……ずっと見てる」
「俺も思う。これはただの調査じゃない。最初から俺たちを“表”に出すための試金石だ」
レイルは小さく言った。
リシェルは、わずかに考え込んでから言葉を選ぶ。
「けど、断れば逆に“後ろ暗い”って見られるかも。……だったら、自分のやり方で受け止めた方がいい」
「たしかに……嫌だけど、背中を向ける方が怖いかもね」
その夜、宿の部屋で――
レイルは再び、通行証を手に取っていた。
静かに触れた瞬間――
通行証の表面に、淡い光が浮かび始める。
浮かび上がるのは、読めない文字列。だが、意味だけは伝わってくる。
『協力か、拒絶か。記録されるか、忘れられるか』
「……選べってことか」
そのとき、モモンが「ぷしゅ……」と低く鳴いた。
体表が波打ち、色が一瞬だけ濃くなる。
「モモン……大丈夫?」
ミルが駆け寄り、彼に触れる。
だが彼女もまた、軽く額に手を当てた。
「なんか、耳が……キーンってする。……また、ノイズみたいな声が近い」
「これは……“通行証が反応してる”ってだけじゃない」
レイルは確信するように言った。
「誰かが、“俺たちが何を選ぶか”を、試してる。もっと大きな力で」
◇ ◇ ◇
一方その頃。リュード郊外の別の宿屋。
帝国の監察官は、部下に指示を与えていた。
「観察段階は完了。次は、“接触と分断”のフェーズへ移行する」
扉が開き、1人の人物が入ってくる。
旅人装束に身を包んだ、温和な笑みを浮かべる女性。
背中には軽装の薬箱。治療師を装った――帝国の情報士官だった。
「さて……そろそろ、彼らに“味方のふりをする敵”を加えよう」
彼女の笑みは、月明かりに淡く照らされていた。
レイルの財布事情(第46話終了時点)
前回繰越 730ルム
今回の収入 なし
支出 装備メンテ、通行証保管具、軽食代:−60ルム
現在の所持金 約670ルム
※共通資金(素材換金・協賛金:約200ルム)は別途保管中




