第47話「公開調査試験 ――見えない観客と、仕掛けられた視線」
リュードの朝はどこか浮ついていた。
ギルド前の広場には人が集まり、屋台すら出ている。まるで祭りだ。
「今日の“試験”、見に行くか?」
「なんでも“あの一団”が参加するらしいぜ」
「通行証持ちの少年……いや、青年? あのスライムも来るんだろ」
そんな声があちこちで飛び交っていた。
「……見られてるね、完全に」
リシェルが静かに言った。
レイルはうなずきつつ、ギルドの入り口に視線を送った。
「俺たち、まだ何も“証明”してないのに」
「ううん、お兄は“証明されてしまった”側なんだと思う。……たぶんね」
ミルの声には、少し切なさがにじんでいた。
「レイルくん、こちらへどうぞ」
サリナが彼らを案内しながら、ふと視線を落とした。
「本日の調査依頼は“選抜試験形式”を取っていますが……正式なCランク昇格対象として、ギルドに推薦が上がっています」
「……え?」
「通行証の件、調査依頼、仲魔管理能力。あなた方はすでに、規定のDランク範囲を超えていると判断されました」
レイルは返答に詰まった。
仲間たちも一斉に彼を見る。
「お兄……すごい……でも……」
「――断ります。今はまだ、その器だと思えない」
レイルの言葉に、空気が少しだけ張り詰めた。
「俺たちは、仲間とともに少しずつ登っていきたいんです。形じゃなく、中身で“上がって”いきたい」
サリナは、驚いたように目を見開き、そして静かに笑った。
「……わかりました。あなたらしい答えですね。上層部には、私から報告しておきます」
◇ ◇ ◇
調査対象は、北門近くの“古井戸跡”。
すでに封鎖されていたその場所には、結界痕と魔力の痕跡が残っていた。
「空気が……重いね」
ミルが耳を伏せる。モモンは低く震え、「ぷしゅぅ」と漏らした。
「通気孔……? いや、これ、地下に何かある」
レイルは井戸を覗き込みながら、通行証を手に取った。
――ふわり。
通行証が淡く光ると同時に、井戸の内部壁面に紋章のような光の軌跡が走った。
「記録結晶、反応しました!」
同行していた記録係の声に、周囲がざわつく。
「紋章……いや、あれは“古文書に記された封印式”に似ている……」
リシェルが低くつぶやいた。
モモンの身体にも、一瞬だけ光の筋が走った。
見れば、その体表に“複雑な魔力模様”が浮かび――すぐに消える。
「モモン、大丈夫……?」
カレンが抱き上げると、彼は「ぷしゅ」と元気なく鳴いた。
進化の兆しなのか、何かが刻まれたのかは、まだ不明だった。
◇ ◇ ◇
その様子を、遠くの丘からひとりの女性が見つめていた。
治療師を装った女スパイ。その手元の水晶装置には、紋章の再現画像が映し出されている。
「これは……ただの通行証反応じゃない。“適合者”の兆し。……導き手、か」
彼女は口元を歪めた。
「万が一の暴走時用に、“封印手順”も確認しておかないとね」
◇ ◇ ◇
調査終了後、レイルたちは簡単な報告書をまとめた。
ギルドの魔晶に記録された映像には、なぜか“紋章の一部が複数回映っている”。
――まるで、誰かが「記録しておけ」と命じたかのように。
「俺たちは、見られてる。……でも、それはきっと、“試されてる”ことでもある」
レイルのつぶやきに、誰も反論はしなかった。
ただ――これが、終わりではないことだけは、全員が感じていた。
レイルの財布事情(第47話終了時点)
前回繰越 670ルム
今回の収入 調査協力金+50ルム(個人分)
支出 祭り露店での軽食・装備品手入れ −40ルム
現在の所持金 約680ルム
共通資金(素材換金・協賛金:約200ルム)は別途保管中




