第45話「紛れた依頼と、揺れる視線」
リュードの街に戻ってきたのは、午後も深まった頃だった。
いつもの広場。いつもの通り。
けれど、何かが微かに違っていた。
「……視線、感じる」
ミルがレイルの袖をつまんだ。
街の人々が、ちらりとレイルたちを見てはすぐに目をそらす。
それは好奇心とも、噂話ともつかない視線だった。
「なんか、俺たち目立ってない?」
カレンが眉をひそめる。
ギルドに入ると、受付のサリナがこちらを見て、少し戸惑った表情を見せた。
「おかえりなさい。……あの、ちょっと話があります」
彼女に促され、カウンター脇の小部屋に案内される。
「これ、今日の依頼表に載っていたものなんですが……」
差し出された紙には、簡潔な調査依頼が記されていた。
目的地は――北東の森。件名は「井戸構造物調査」。
だが、それだけではなかった。
その紙の“備考欄”には、こう書かれていた。
《先行調査済:レイル・ミル・カレン・リシェル(都市外依頼参加)》
《登録番号:帝国地方連絡書式/代行記録:都市代表代理》
「……俺たち、こんな依頼、受けてない」
レイルが低くつぶやくと、サリナが頷いた。
「私も不審に思って照会しました。でも、記録システム上は“あなたたちが参加済み”という扱いで、上書きされてるんです」
「誰が……どうやって?」
「“代表代理”という肩書きで来られると、支部では止められません。記録だけ見れば、正規ルートに見えてしまいますから」
彼女の顔には、職員としての葛藤と悔しさが滲んでいた。
「つまり、あの井戸調査は……“誰かが最初から想定してた”ってことか」
リシェルが手を組んで静かに言う。
「……俺たちは観察されてた。最初から、全部」
重い空気が流れる中、モモンが「ぷしゅ……」と低く鳴いた。
その目が、ギルドの天井の一角――観察窓のような位置を見つめている。
「モモン……感じてるの?」
ミルが言うと、スライムの身体がわずかに震えた。
◇ ◇ ◇
ギルドを出ると、今度は街の素材屋へ向かった。
だが、そこでも奇妙な出来事があった。
「おう、レイル君か。……そのスライム、変わってんな」
素材屋の親方がモモンを見て、やけに興味深そうな声を出した。
「昨日、通りすがりの商人が“帝国の特使が探してる魔物に似てる”って言ってたんだよな」
その場の空気が、少しだけ冷たくなった。
「なにそれ、物騒……」
カレンが呟く。
親方は軽く肩をすくめて笑ったが、すでに“情報”は出回り始めている。
「誰かが……流したんだ。俺たちのこと」
レイルが静かに言った。
「名前も、仲魔も、“帝国が興味を持つ存在”として」
◇ ◇ ◇
その夜。
レイルは宿の部屋で、静かに通行証を見つめていた。
「もう……隠れてるだけじゃ、済まされないのかもな」
ふと、口をついた言葉に、自分でも驚いた。
「お兄……そう思うの?」
ミルがベッドの端で膝を抱えて尋ねた。
「なんか、前とちがうよ。……いろんな人が見てる気がする」
「うん。……俺たち、たぶん“狙われてる”。でも、それだけじゃない。試されてもいる」
そのとき、ドアの外でノックが響いた。
「……レイルさん。サリナです。明日、ギルド長が面会を希望されています」
静かに告げられたその一言が、空気を変えた。
◇ ◇ ◇
その夜、街外れの丘。
灰の外套をまとった男が、月の下で紙束を確認していた。
「都市圏での認知率、目標値到達。干渉レベル、第二段階に移行」
その横で、黒衣の監察官が無言で頷く。
「次は、本人の意志で“表”に出るかどうか。……さあ、どう動く?」
視線の先には、リュードの街灯が静かにまたたいていた。
レイルの財布事情(第45話終了時点)
前回繰越 760ルム
今回の収入 軽微な素材換金+30ルム
支出 食費・情報料・雑費 −60ルム
現在の所持金 約730ルム
※共通資金(素材換金・協賛金:約200ルム)は別途保管中




