第30話 街の笑顔と、忍び寄るもの
祭りの夜が明けたリュードの街には、久しぶりの活気が戻っていた。
屋台の並ぶ広場には焼きたてのパンや果実酒の香りが漂い、
子どもたちは竹とんぼを追いかけ、大人たちも「昨日は賑やかだったな」と顔をほころばせる。
ギルドのカウンター前では、
サリナが「おはようございます、レイルさん」と柔らかく微笑み、
リシェルは森の素材を仕分けながら「祭りのあとって、なんだか静かですね」とつぶやいた。
カレンは屋台の準備を終え、「今日は特別メニューだよ!」と声を弾ませる。
ミルとモモンも朝の市場でパンのかけらをもらい、嬉しそうに“ぷしゅー”“キュルッ”と鳴いていた。
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◆一時の平和と成長
屋台の木陰で朝食をとる一行。
ふわふわの白パン、温かい果実スープ、カレン手作りのパイ。
街のパンは村の黒パンと違って「甘みがある」とレイルは感心する。
財布を確認すると、前夜の稼ぎでやや余裕ができていた。
(所持金:2,860ルム/宿代:20ルム/食費:8ルム)
リシェルが差し出したのは、銀色に輝く細い糸を巻きつけたお守り。
「新しい素材で、篭手に小さな細工をしてみたんです。身に着けてると、少し疲れにくくなるはずです」
レイルは「ありがとう」と受け取り、仲間たちと穏やかな時間を楽しむ。
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◆“気づけばパーティー”の朝
……ふと気がつくと、俺はもう“ぼっち”じゃなかった。
広場のベンチでパンをかじりながら、レイルはなんとなく周囲を見回す。
右には薬草の瓶を大事そうに抱えるリシェル。
左には、屋台の新作パイを無邪気に頬張るカレン。
足元ではミルとモモンが“ぷしゅー”“キュルッ”と寄り添っている。
「あれ……いつの間にか、ちゃんと“パーティー”になってるんだな、これ。」
最初は、不遇職のテイマーと心細い仲魔一匹だけの旅だった。
どうせ自分なんて誰にも選ばれない――そう思っていたはずなのに、
気づけば、
「レイルさーん、今日のパン半分こしませんか?」
「新しいお守り、つけ直しますね」
「ぷしゅー!」「キュル!」
そんな声に囲まれている。
(でも……これが、ずっと続くのかな?)
ふと不安がよぎる。
自分がみんなとうまくやれているのは、たまたま今だけかもしれない。
いつか、仲間も街も、この日常も、何かのきっかけで全部遠ざかってしまうんじゃないか――
そんな陰りが、胸の奥で小さくざわめく。
それでも、今この瞬間だけは――
誰かと並んで歩き、笑いあえていることに、
ほっとする気持ちも確かにあった。
「……ま、地味なパーティーでも、悪くないか」
レイルは心の片隅の不安をそっと押しやりながら、
いつもより少しだけしっかりとパンを噛みしめた。
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◆都市の変化と小さな希望
市場には昨日より活気があり、
果実屋のおばさんが「森の恵みのおかげで、今日は久しぶりに満足な仕入れだよ」とレイルにおまけの果物を渡してくれる。
鍛冶屋のザムも「また新しい素材が手に入ったら寄れよ」と笑顔を見せた。
ギルドの掲示板には、新しい依頼が何件も貼り出され、
「この分なら、来週には街の祭りももう一度やれるかもな」と、住民たちが前向きな噂話をしている。
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◆不穏な兆し
そんな明るい空気の中、ギルドの一角で
「なあ、昨日の夜また森で“光る目”を見たんだ」「銀色の影だったってさ」
というひそひそ声が聞こえてくる。
サリナがレイルの耳元で小声で囁く。
「今、森の奥で何か異変が起きているようです。依頼が出るかもしれませんので、準備は怠らないでくださいね」
レイルも胸騒ぎを覚える。
(……油断は禁物、か)
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◆次の依頼への誘い
昼過ぎ、ギルドに新たな調査依頼が届く。
「森の異変――光る目と銀色の影の正体確認」「付近の村でも家畜の行方不明が続出中」と書かれている。
仲間たちとギルド奥の休憩室で、
「今回は前より危険そうだな」「準備は万全にしていこう」と作戦会議。
リシェルは「新しいお守りを人数分作れます」、
カレンは「非常食と薬草もたっぷり持って行くよ」と張り切る。
ミルとモモンも「キュル!」「ぷしゅー」とやる気満々。
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◆夜の街、静かな決意
夜。街の灯りが次々と消えていく中、レイルは広場を見つめる。
昨日の祭りの賑わいが嘘のように静まり返り、森の方からは遠くでフクロウが鳴く声。
レイルはお守りを握りしめ、
(みんなの平和が、このまま続きますように――)
だがその胸の奥に、消えぬ不安が静かに燻っていた。
レイルの財布事情(第30話終了時点)
•前回所持金:2,860ルム
•朝食(広場の屋台):−8ルム
•宿代(1泊分):−20ルム
•小物(リシェルのお守り材料・お礼):−12ルム
•非常食・消耗品の買い足し:−15ルム
•市場でのおまけ果物:+0ルム(サービス)
•依頼の報酬・売却益:+80ルム(森の素材・依頼達成分)
▶ 現在所持金:2,885ルム
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パンと屋台の温かい賑わいに包まれつつも、
レイルの財布はまだまだ慎ましく、次の冒険に備えて少しずつ貯めている。
日々の支出と小さな収入の積み重ね――
それが今の「静かなパーティー」の現実だ。




