第25話 街外れの廃屋で
──リュードの朝、街外れ。
ミルとモモンを連れて指定された廃屋へ向かったレイル。
石造りの倉庫は壁が苔むし、窓は割れ、扉は錆びている。
近寄る者もなく、空気はひんやりと湿っていた。
(都市の影、か……)
警戒しつつ扉を押し開けると、
中はほこりとカビの匂い、散乱したゴミ、
足元からガサガサと動く音。
「……ミル、前を頼む。モモンは後ろからカバーだ」
ミルが鋭い視線で暗闇を睨み、モモンは地面に粘液を広げて警戒する。
──突如、ゴミ山から素早い影!
イタチ型魔物「クラッタ」の群れが一斉に襲いかかってきた。
中はほこりとカビの匂い、散乱したゴミ。
薄暗い床下から、ガサガサという複数の小さな足音が響く。
ミル「……臭い。たくさんいる」
レイル「分かった、油断するなよ。モモン、前を塞げるか?」
モモン「ぷしゅー!(やる!)」
モモンの粘液が床に広がり、薄い膜となって通路をブロックする。
次の瞬間、ゴミ山から赤い目のクラッタが一斉に飛び出してきた。
レイル「来た!ミル、右に二匹!」
ミル「了解」
ミルが低く構えて、爪で素早く一体を弾き飛ばす。
「――もう一匹、下から!」
レイルは投石で牽制しつつ、
「モモン、奥を頼む!」
モモン「ぷしゅっ!」
モモンの粘液が飛び、クラッタが粘着に足を取られる。
「ぷしゅ~(捕まえた)」
戦闘の最中、ミルがクラッタの一体をくわえて戻ってくる。
ミル「ちょっと臭い。でも弱い」
レイル「傷はないか?」
ミル「平気。モモン、少し足に付いてる」
モモン「ぷるぷる……ぷしゅ(大丈夫、お腹すいた)」
レイル「よし、片付けたら何か食わせてやる」
残りのクラッタを手際よく片付け、
粘液とミルの連携で短いが激しい戦闘を終えた。
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◆都市の“理不尽”――先輩冒険者たちの横取り
素材を回収しようとしたとき、
背後から声がした。
「おい、田舎者。ここは俺たちの縄張りだろ?」
地元のDランク冒険者と取り巻きが現れ、
「素材はうちで管理しとくよ」と言いがかりをつけてくる。
ミルが低く唸り、モモンも警戒音を出す。
「依頼証もあるし、成果はギルドに提出する」とレイルが静かに答えると、
彼らは舌打ちして引き下がったものの、
「都市じゃ新入りがでかい顔すんな」と捨て台詞を残す。
(……これが都市のルールか)
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◆ギルドでの報告、そしてサリナの言葉
なんとか素材と依頼証を持ち帰り、ギルド支部へ。
受付のサリナは静かにレイルの報告を聞き、
「都市は厳しい場所だけど、正しいことをしていれば必ず誰かが見ているよ」と微笑んで労ってくれる。
続けて、少し照れくさそうに小声で付け加えた。
「……いつも兄がそう言ってたんだ。私も信じてる」
クラッタ素材のいくつかは衛生面から買取拒否、
残りと依頼達成分で60ルムを受け取ることができた。
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◆素材店でリシェルとの出会い
ギルド帰り、素材店「ミルフォード堂」に立ち寄ったレイル。
奥で棚を整理していたメガネの少女が控えめに顔を出す。
「こんにちは、何かお探しですか?」
「魔物素材の査定、できますか?」
「あ、もちろん。クラッタ素材は扱いが難しいですけど、
傷んでいない部分なら包帯や薬草の包み布に使えます」
リシェルは手際よく素材を仕分けしながら、
「もし時間があれば、薬草調合も体験してみませんか?」と静かに勧めてきた。
「実は最近、冒険者の方が傷や体調不良で苦労されているのをよく見かけて……。
簡単な調合薬を自分で作れると、現場でもきっと役立ちます。
よかったら、材料選びからお手伝いしますので……」
リシェルの真面目な表情に、レイルも自然と「お願いします」と頷いた。
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◆購入したクラフト素材
•傷んでいないクラッタの毛皮(包帯・ポーチ用):2枚/各1ルム
•細い牙(お守りや針金細工に):数本/セットで1ルム
•乾燥薬草セット(消毒・包帯固定用):1袋/2ルム
•薬草練り粉(初級回復調合用のベース素材):小瓶入り/3ルム
•頑丈な麻糸・針セット(現場用の応急クラフトキット):1セット/3ルム
合計11ルム(リシェルが値引きして10ルムに)
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◆屋台街でカレンとの出会い
素材店を後にし、屋台街をぶらついていると、
通りの一角で串焼きの屋台を切り盛りする少女が声をかけてきた。
「お兄さん、疲れてるみたいだね? 仲間も連れてるし、腹ごしらえしていきなよ!」
明るい笑顔の少女カレンが串焼きや揚げパンを手際よく焼き上げている。
カレンはミルやモモンの姿に気づき、「お客さんの仲魔かな?」と微笑む。
「うちの屋台、たまに仲魔連れの冒険者さんも来るんだ。よかったら、仲魔用の特製おやつもサービスするよ!」
ミルはカレンの手から焼き鳥を受け取り、モモンには小さな揚げパン。
「強くなりたいなら、しっかり食べて元気つけなきゃね!」
カレンは、冒険者や仲魔たちを“街の家族”のように思っているのだ。
モモンはカレンの屋台おやつでいつもより元気に膨らみ、新しい動きを見せる。
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◆財布事情(25話終了時点)
•依頼報酬:+60ルム
•素材店での素材売却・クラフト材料購入:−10ルム
•屋台食べ歩き:−5ルム
•現在所持金:2713ルム
■クラッタ(Clatta)
分類:小型獣型魔物(イタチ型)
生息地:都市の廃屋、下水道、裏路地、古井戸、時に市場の地下
体長:30〜50cm/体重1.5〜2kg
外見:痩せた灰色〜黒色の体毛、長い尻尾、赤い小さな目。牙が異常に発達している個体も多い。
特徴:
•夜行性・群生型。特に都市の衛生状態が悪い場所で爆発的に増える。
•食性は雑食。廃棄物・小動物・腐肉・果物・ときには魔物の死骸まで。
•群れの中にボス格がいることもあり、たまに「変異種(巨大化・毒牙持ち)」が混じる。
•単独だと臆病で逃げやすいが、群れると凶暴化し、襲撃してくることも。
危険度:F〜Eランク(冒険者基準)
主な被害:
•衛生問題(噛まれると感染症や発熱のリスクあり)
•食料や皮革類を荒らす
•下水道や廃屋の安全を損なう原因
素材価値:
•毛皮(質は低いが、応急包帯や小物、安価な防寒着の裏地に)
•牙(お守りや針金細工の材料。高値はつかないが、まとめて売ると便利)
•肉は不衛生で食用不可(都市伝説的に“非常食”扱いの浮浪者も稀に)
■物語描写でのクラッタ
•下水や廃屋を根城に「ガサガサ」「カサカサ」と素早く動く。
•物音に敏感、集団で現れると「赤い目」が一斉に光って不気味。
•場所によっては“汚染魔素”を帯びた変異体が発生しやすく、ボス級クラッタは毒や瘴気持ちも。
•子どもやペットが被害にあったり、市場の屋台で食材をかじる姿がたびたび目撃される。
•街の古老や職人は「魔物よりタチ悪い害獣」とぼやくことも多い。
都市冒険者あるある
•素材は安いが数が多いので、初心者や貧乏冒険者の“最初の稼ぎ”によく狙われる。
•逆に「クラッタ駆除専門の小さな依頼」が絶えないため、都市に定住する冒険者は腕試しや訓練に使うことも。
•だが傷や感染リスクも高く、油断すると痛い目を見る“地味だけど厄介な魔物”。
■現地民のリアルな声
•「パンに齧り跡があったらクラッタのせい」「市場の古い井戸に棲みついてるぞ」
•「昔は猫を飼ってたが、今じゃクラッタが増えすぎて猫も追い払われる始末」
•「肉は食えたもんじゃないが、皮は包帯にちょうどいい」




